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佐々木先生の想いを、次の世代に – 夏休み、朝のお話会

菰野町郷土史研究会代表幹事 中村 誠

インタビューアー
日本考古学協会会員 北野 保

北野 菰野町郷土史研究会の代表幹事の中村誠さんに、現在お住いの大羽根園での夏休みのユニークな取り組みについてお聞きします。中村さん、お生まれはどちらですか?

中村 四日市の曙町です。

北野 学校の先生をされていたんですよね。

中村 はい。一般企業から教員に転職して、最後は菰野町立朝上小学校の校長で退職しました。

北野 夏休みに子供たちに地元の人たちが話をするという『朝の10分間のお話し会』を企画・運営されていますが、どういうきっかけで始められたのですか?

中村 7年前に佐々木先生がお亡くなりになって、地域の歴史に関心が薄れていくのではないか?と危惧しました。そんな時、子供たちが地域の人から話を聞くという機会があったらいいなと思ったんです。お寺の境内で夏休みラジオ体操をして、その後、ご住職が子供たちに講話をしていたという話を知りまして…。それで「夏休み、中央公園に集まってくる子供たちを対象に、ラジオ体操が終わった後の10分間をその時間に充てたらどうだろう」と思い立ちました。ラジオ体操は松寿会(大羽根園の老人会)が主催しているので、会の人たちにもいろいろな話をしてもらえるのではないかと思いました。

北野 どれぐらいの人数が集まったのですか?

中村 1年目は参加してくれた子どもたちにカードを配っっていました。多い日には140枚配りました。保護者の方や松寿会の人も含めてですが。

北野 中村さんはどういう話をされたのですか?

中村 第一回は大羽根園の中央公園に山口誓子の石碑がありますが、以前その石碑を大切にしている地域の方がいまして、「地域を大切にする気持ちや思いについて」という話をしました。他には、庭でモリアオガエルが産卵するお宅があって、私は偶然にその家の生垣に0モリアオガエルの卵を見つけましてね、その話をしたり…。またその家の前でタマムシを捕まえたことがありまして、そこから法隆寺の「たまむしの厨子」の話をしたこともありました。大羽根園の住環境は、ほんとに自然が豊かで住みよい街だと思います。

北野 中村さん以外の方は、どういう話をされたのですか?

中村 松寿会の会員で俳句をやっている人に山口誓子の俳句の解説をしてもらったり、現役時代、火力発電所の技術者だった方がマイクロメーターで髪の毛の厚さを測ったり、気象予報士の方がペットボトルの中に実際に雲を作ったり~あれは大人でも驚いたと思います。保護者の方が話し手になることもあります。厚生病院のお医者さんが毎年、数字の話をされるんですが、あの話はとても興味深かったですね。民話を話してくれる方もいましたし、歌を歌ったり楽器を演奏してくれる方もいました。内容は様々でユニークで興味深いことが多いです。

北野 聞いていた子供たちが将来、大人になって話し手になることもあるかもしれませんね。

中村 そうなるとありがたいですね。私は何事も10年は続けようという主義なので、今年6年目ですから、あと4年はがんばろうと思っています。

北野 10年といわず、もっと続けて下さい。

中村 後を引き継いでくれる方がいるといいんですけど。

北野 話し手も楽しいんじゃないですか?

中村 そうですね。話される方も自分の体験を話すことで、少しは生きがいになっているのではないでしょうか。

北野 子供たちの反応はいかがでしたか?

中村 それはもう、活き活きして聞いていますね。ある年には、4年生の女の子が、話をする人にインタビューして大きな画集2冊にまとめた子もいました。

北野 10分間という時間はどうですか?短いようにも思いますが。

中村 話を10分にまとめるのは難しいのですが、かといってすごく短くもなく、聞く子どもたちの負担も少ないので、ちょうどいい長さかなと思います。

北野 中村さんご自身は「地域のおじさん」として、小学校へも授業をしに行かれてるんですよね。

中村 去年から菰野小学校の子供たちに、菰野城の話をしにいってるんですよ。菰野小学校は菰野城のあったところですからね。去年は卒業前の6年生150名に体育館で話をしまして、今年は1・2月に3~4年生に学級別に10回の授業をしました。菰野藩についてはいろいろと面白い話もありますので、そういう話をすると子供たちは真剣に聞いてくれますね。毎回、話の最後に「今日聞いた話を、お家のひとや、友だちなどにお話して下さい」とお願いしているんですよ。その後、子供たちに会うと「話したよー」て言われることもあり、嬉しいですね。

北野 佐々木先生から引き継がれた郷土・菰野町への想いを、しっかりと子供たちに伝えられているのですね。

中村 そうであればありがたいですね。佐々木先生が残してくださったものは、ほかの市町村にはない「菰野の宝物」といえるものです。だから、それを次世代に伝えていかないといけないと思っています。私は歴史は門外漢ですが、こうした活動を通じて先生の思いが地域の方々や子供たちに伝われば嬉しいですね。あと、この活動を絶やしてはいけないと思っています。そのため、バトンを次の人に繋げれるまで、がんばっていきたいと思っています。

中村 誠氏プロフィール
1947年四日市生。四日市高校・三重大学教育学部卒業後、四日市市追分にある中島製茶株式会社に7年ほど勤務。その後、小学校教諭に。中島製茶株式会社は一般には無名だが業界トップクラスの優良企業で、中村氏は「数多くの貴重な経験をさせてもらった」と語る。

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