PERSON~三重の人物紹介

鈴鹿英数学院COO / 伊藤奈緒

eisu 伊藤奈緒

「eisu」(本社・津市広明町)は1965年、鈴鹿市に創設され、三重県内を中心に東京・静岡・愛知に計93校舎を展開、今年で50周年を迎えた。学力向上、志望校合格はもちろん、その後の人生の財産となる優れた教育を提供することを使命とし、子供たちの可能性を広げるための指導に挑戦し続けている。全校、全社員を率いるeisuグループCOO(最高執行責任者)伊藤奈緒に、これからの時代に求められる教育について聞いた。

20世紀型の教育が通用しない時代

 戦後の高度成長期には人口も経済も右肩上がりだったが、リーマンショックを経て日本はこれからゼロ成長の時代へと向かっている。この先行き不透明な時代には、自分の生活を自力で築き、幸せを自分の手でつかむことができる主体性と実力を持つ「自立」した人財(人「財」=世の「宝」になるような人)を目指す必要がある。しかし、そのためには今までの教育のあり方で十分と言えるだろうか? 伊藤は言う。
「私たちが受けてきた教育は20世紀型教育です。右肩上がりの成長社会では人口も増加し、アメリカのように成功をイメージできるロールモデルもありました。しかし今、日本は成熟社会に入り、人口減少、少子高齢化が急スピードで進んでいます。もはやロールモデルもなく課題ばかり多く抱えています。20世紀型教育を受けてきた親御さん世代と、今の時代の子供たちの教育が同じであるはずがありません。大人が自分たちの受けてきた教育概念を子供に押しつけるのには無理があります。また親御さんは子供に対してはどうしても理性でなく感情的になってしまいます。ですから教育には、親御さん以外の第三者の大人の介入が必要なのです。そこに私たちの存在意義があります」。

志を持つことから始まる

 では、これからの時代、どのような教育が求められるのか?「それはすべて〝志〟を持つことから始まる」と伊藤は言う。子供たち自身が将来どうなりたいのか?を考え、社会にどう貢献できるか?といった〝志〟をまず見出す。そして〝志〟を実現するため具体的な目標を設定し、必要な学力や能力、そして学歴を習得していくのだ。
「将来のキャリアビジョンを明確にすることが大切です。志を実現するために、どの大学に進み何を学ぶのか?そのための高校はどうするのか?そういうふうに大きな志から個々の具体的な目標に落とし込み、そこから正しい努力の手順を導いていくことが塾の役割なんです」。
 現代はモノがあふれているため、ハングリー精神に欠け、志を持てない子供たちが多いと伊藤は感じている。大学入試はそんな子供たちに良い試練となると伊藤は言う。「大学入試は社会に出て活躍できる大人になるための多くを学ぶことができる、最大の機会なんです」。
 大学受験は大学や学部によって入試科目、配点も違う。
「大学受験はボリュームが大きいので、学習戦略を立案するためには1日でも早い目標を設定して取り組んでいくことが重要です。そのうえで~必死に努力して成果を得る~そんな成功のプロセスを、子供たちに受験を通して体験してほしい。それは社会に出てから必ず役に立ちます。社会人になる前に子供たちが自分の志の実現に向けて必死に努力する機会って、この機会を除くとなかなかないんですよね」。

教育は人の成長を支援すること。そして人を教育できるのは、生身の人間だけ

 教育のあるべき姿について、さらに話は弾む。
「教育は人の成長を支援すること。子供たちに一声かけると目が変わる、目が変わると言葉が変わる、言葉が変わると行動が変わる、行動が変わると習慣が変わり、最終的には人生、運命が変わっていきます。ただしかし、一言で子供たちを駄目にしてしまうこともあるため、常に自分たちも自己研鑽していかなくてはなりません」。
 子供たちと自分との関わりを話す中で、三重の最南端にあるeisu熊野市駅前校の例があがった。eisu熊野市駅前校は全国一努力し学力を伸ばしている校舎として、全国に1300校を越える東進ネットワーク全体から「全国第一位」として表彰されている項目がいくつかある。昨年(2015入試)は在籍していた高3生11人が全員、有名国公立大学へ合格した。
「生徒たちはみな、高い志・目標をもって、大学受験できることに感謝して、一所懸命頑張るのです。3年間必死に努力することで、偏差値が高校入学当時40後半だった子供たちが次々と有名大学に入っていきます。多くの勇気とパワーをもらえ、この仕事をしていて本当によかったと思う瞬間です」。
 彼ら、彼女たちの頑張りは群を抜いており、全国的な成功例としても称えられている。
 またこんなエピソードも披露してくれた。伊藤が先日、保護者説明会で熊野市駅前校を訪れる際「四日市からお土産を持っていきたいのだけれど何がいい?」と尋ねたところ、生徒たちは「参考書を買ってきてほしい」と希望した。大学受験を志望する子供たちが少ない地域で、書店には参考書がそろっていないのだという。
「びっくりしましたね。生徒たちは『国公立大学へしか進学できない』という思いもあって、一所懸命なんです。彼らの合格体験記を読んだ時は大泣きしました。なぜなら『eisuという学習環境がなかったら今の自分はいない、経済的に厳しい家庭環境の中でバックアップしてくれた両親に感謝したい』とあったからです」。
 伊藤は「どれだけICT教育が進んだとしても、人を教育できるのは人でしかない」と力説する。
「同じ生身の人間だからこそ、人の心に火が点けられるんです。勉強する意味を教えるのは人間にしかできません。そこだけはどんな世の中になっても変わらないと思います」。

サービスが世の中に残り可視化できる職業との出会い

 伊藤は大学卒業後、2000年ミス三重グランプリを歴任、県の観光大使も務めた。多くの人と接する中「みなの最大の笑顔を引き出すのが君の使命だ」と言われていた。初めての経験ばかりで最初は楽しかった。しかし、最高の笑顔が引き出せたとしても、瞬間で終わってしまうことに虚しさを感じるようにもなっていった。そんなとき、教育という仕事に巡り合った。
 伊藤自身も中1から高3まで6年間学んだ「eisu」に2001年に入社、高校部(大学受験部門)で英語を担当すると、3年で人気、実力ともナンバーワンの講師に躍進した。その後、2006年、情報通信技術(ICT)を活用した映像を使った授業に切り替える経営方針が発表されると、「東進衛星予備校」の運営に尽力。そして2010年、経営陣の多くが男性に占められている塾・予備校業界で、COO(最高執行責任者)に就くよう白羽の矢が立った。
 「2006年以前の高校部(大学受験部門)は黒板を使ったライブ授業スタイルでしたので、変化に順応していくことは正直、怖かったです。また東進のICT授業が入ってきたことで、大幅なリストラがあるのでは?と不安になる講師もいました」。さまざまな風評が飛び交う中、思い切った教育と人事の革新に奔走した。
 そのような中、伊藤は社員研修に特に力を注いできた。その結果、だんだん社員たちは「黒板を使った授業だけが教育ではなく人の成長を支援することこそ教育であり、そのための手段は多様であっていい」ということに気づいてきた。今は社員みなが、そういう教育の仕事に生き甲斐を感じている。
 子供たちに単に勉強を教えるだけでなく『志教育』や『キャリア教育』にも時間に充て、社員自身の自己啓発、自己研鑽につなげている。数年前までは自らも講師として生徒と一対一で向き合っていた伊藤。現在の仕事は「自分と同じ志で、今以上の高い指導、サービスを提供できる社員を複製していくことです。社員が実績・成果をあげ、この仕事をやっていてよかったと思ってもらうことがうれしい」と笑顔を見せる。

成果が出たときには喜びを共有することが大切

 年間100回近くの教育講演・セミナーをこなす伊藤。直接、多くの子供たちや保護者と接し、現代の教育問題やこれから目指すべき教育について講演し、感謝され、また感謝する。好きな言葉は「情熱が才能」。
「思いがすべてだと思います。念じて、思いを強く持って行動すれば必ず結果は出ると思います」。  
 思いを実現するため努力して成果がでたときに、人間の脳からはドーパミンが放出され、感情記憶が右脳にインプットされる。そうすると『あの気持ちを味わいたい』と、さらに高い目標を上げて頑張ることができるのだ。
「そのときの感動をさらに大きくするために褒めてあげることで、ドーパミンは2倍、23倍にもなると言われています。成果を出すことはいいこと、先生や両親、周囲も喜びます。皆で感動を共有することが大切です」。
 教育は家庭だけでも塾だけでも成立しない。三位一体で成り立つものである。
「我が子の人生が豊かになるようにと願う親御さんたち。その気持ちに応えようと必死で努力する子供たち。みんなが笑顔でeisuを巣立っていけるように、私たちももっともっと頑張らないといけない、といつも思っています」。

【eisu沿革】
1965年 鈴鹿市で設立
1984年 津駅西口前に本社ビル完成。本部機能を移転。
1984年 高校部を開設。
1988年 御在所岳のふもと湯の山温泉に研修宿泊施設オープン。
1990年 東京事業本部を設立。
2004年 三重県内で校舎50校を突破。
2006年 東進衛星予備校を導入。
2013年 小中高大、社会人を対象とした英語英会話教育メソッドを開講。
2015年 eisu group創立50周年。

eisu ホームページ

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