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早世の詩人、竹内浩三

伊勢市出身 1921-1945

1921年、伊勢市生まれ。宇治山田中学から日本大学映画科に進学。1942年、宇治山田中学校時代の友人中井利亮たちと同人誌『伊勢文学』を創刊する。同年9月、日本大学を繰り上げで卒業し軍隊に入隊。1945年、23歳でフィリピン・ルソン島にて戦死(厳密には生死不明)。入隊中に書きつづった日記「筑波日記」は検閲をくぐり抜けて実姉の松島こうさんの元に送り届けられた。死後、その姉や友人の中井利亮らが遺稿集を刊行。評価が高まった。

帰還

あなたは かえってきた
あなたは 白くしずかな箱にいる
白くしずかな きよらかな

ひたぶる ひたぶる
ちみどろ ひたぶる
あなたは たたかった だ
日は黒ずみ くずれた

みな きけ
みな みよ
このとき あなたは ちった
明るく あかくかがやき ちった
ちって きえた
白くしずかに きよらかに
あなたは かえってきた

くにが くにが 手を合す
ぼくも ぼくも 手を合す
おろがみまする
おろがみまする
はらからよ
はらからよ
よくぞ

あきらめろと云うが

かの女を 人は あきらめろと云うが
おんなを 人は かの女だけでないと云うが
おれには 遠くの田螺の鳴声まで
かの女の歌声にきこえ
遠くの汽車の汽笛まで かの女の溜息にきこえる
それでも かの女を 人は あきらめろと云う

ある夜

月が変圧器にひっかかっているし
風は止んだし
いやにあつくるしい夜だ
人通りもとだえて
犬の遠吠えだけが聞こえる
いやにおもくるしい夜だ
エーテルは一時蒸発を止め
詩人は居眠りをするような
いやにものうい夜だ
障子から蛾の死がいが落ちた

骨のうたう

戦死やあわれ
兵隊の死ぬるやあわれ
とおい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

苔いじらしや あわれや兵隊の死ぬるや
こらえきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし

骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
がらがらどんどん 事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になった

ああ 戦場やあわれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった

ぼくが 帰るとまもなく
まだ八月に入ったばかりなのに
海はその表情を変えはじめた
白い歯をむき出して
大波小波を ぼくにぶっつける

ぼくは 帰るとすぐに
誰もなぐさめてくれないので
海になぐさめてもらいにやってきた
海はじつにやさしくぼくを抱いてくれた
海へは毎日来ようと思った

秋は 海へまっ先にやってくる
もう秋風なのだ
乾いた砂をふきあげる風だ
ぼくは眼をほそめて海を見ておった
表情を変えた海をばうらめしがっておった

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