首長インタビュー

三重県知事 / 鈴木英敬

鈴木英敬

【取材/2012年】
マイクロキャビン創業者・大矢知直登がホストを務める「プラス対談」。記念すべき第一回のゲストは鈴木英敬三重県知事。三重県の若きリーダーは、吉本芸人ばりの関西弁で歯に衣きせずズバズバ話す、パワーの塊のような人だった。

大矢知 官僚時代以降の知事のプロフィール、エピソードは、色々なメディアに取り上げられていて皆さんご存じなんですが、以外に知られていないそれ以前の知事にフォーカスを当てたら面白いかなと思い、本日はお話をすすめさせていただきます。まず幼年時代。神戸に住んでいられたんですよね。

鈴木 小学校入るまでは神戸に住んでました。生まれたのは岡山なんですけど、おやじの仕事の関係で生まれて1か月で神戸に引っ越したんです。その後、小学校にあがる時に西宮に引っ越しました。

大矢知 本籍地は三重なんですよね。

鈴木 そうです。三重県は菰野に父方の祖父が一時住んでたみたいです。

大矢知 親戚とかはいないんですか?

鈴木 いないみたいですね。衆院選の時はいなかったです。知事になってからは出てきたみたいですけど(笑)。

大矢知 子供の頃の知事はどんな少年だったんですか?

鈴木 母も働いてたんで、保育園のお迎えは最後でした。いわゆる「鍵っ子」ってやつ。いつも首から鍵を下げてました。

大矢知 どんな性格の子供でした?

鈴木 性格はあんまり変わらないですね。みんなに構って欲しかったんで「明るい方がみんなに構ってもらえる」って思ってました。小学校では児童会の役員やってましたし、部活は落語クラブ。当時は黒いズボンをよく履いてたんで、「鈴木屋まるこげ」って名前で小学校の学芸会で大喜利やったりしてました。

大矢知 落語クラブ!? さすが関西ですね。小学生では古典はやらないですよね?(笑)。

鈴木 やらないやらない(笑)。大喜利ばかりでしたね。当時、笑点とか人気ありましたから。

大矢知 ゲームとかやりませんでした?

鈴木 やりましたねぇ。ファミコンやってました。まだゴムのボタンで、押したらへこんで戻ってこーへん(笑)みたいな、初期ファミコン。あとゲームウォッチ。ボールとかドンキーコングとか…。その世代です。

大矢知 ぜんぜん普通の子供じゃないですか。神童とかじゃなかったんですか? そんな噂、聞きましたよ(笑)。

鈴木 いやいや、全然フツーでしたよ。で、小学校5年ぐらいからみんなが学習塾へ行くようになって「僕も行きたいわ」って親に言って行かせてもらったんです。まぁ僕も負けず嫌いなんで、一生懸命勉強しました。そしたら塾の先生に「灘でも受かる」ってそそのかされて。当時、近所に甲陽学院っていう進学校があったんですけど、中学から丸坊主なんですよ。丸坊主が嫌だったんで灘にしました。

大矢知 チェロはどういうきっかけで始めたんですか?

鈴木 父も母も貧乏で兄弟も多かったんで、楽器とかは無理ですよね。それで「子供には楽器をやらせたい」と思ってたみたいです。小学校4年ぐらいかな。近所の初心者でも入れる市民楽団に入ってチェロをはじめたんです。チェロは楽しかったですね。それで「灘があかんかったら公立行ってチェロを本格的にやって、将来は音大でも行こか」なんて思ってました。公立へ行ったら全然違う人生だっかたもしれませんね。

大矢知 政治家の「せ」の字もなかったんですね。

鈴木 なかったですね。小学校6年生の時、夢は?って聞かれて「総理大臣」って答えたようですけど。中曽根さんが総理大臣の時で、テレビでレーガンやサッチャーやミッテランと会談してましたよね。それを見て「すげーなぁ。総理大臣になればテレビいっぱい出れるんや」って。目立ちたがり屋なんですよ(笑)。

大矢知 結構モテました?

鈴木 当時は今よりだいぶ痩せてましたから、それなりに(笑)。灘は男子校なんですけど、僕が生徒会長の時、女子校との交流会を発足させたりして頑張ってました。それ以外にも、今でいう「合コン」みたいなのよくやってましたね。お酒の入らないやつ。あと女子校の文化祭に行ったり、文化祭に女子校の子を呼んだりとか。

大矢知 東大へ入る時、一浪してますよね。挫折感とかなかったですか?

鈴木 う~ん、あったかな。でもあんまり勉強してなかったから。成績も悪かったし。文系80人の中で数学の成績が下から3番目でした。

大矢知 浪人の時は死に物狂いで勉強されたんですか?

鈴木 駿台予備校神戸校の第一期生だったんですけど、浪人も楽しかったなぁ。まぁ一生懸命勉強しました。「何で数学が苦手なんだろう?」って考えた結果、難しい問題を答えを見て解いたような気になっていたという事に気づいて。それで高校1年の数学の問題集を買って、最初から解いていった。そうしたら数学が得意になって、最後は数学で点を稼ぐぐらいになりました。

大矢知 どうして東大に行こうと思ったんですか?

鈴木 「文系やから東大行かな」って感じですね。理系だったら京大でもいいし医学部なら地元でもいいんですけど、とにかく東京に行きたかったです。で、基本的に負けず嫌いなんで「行くなら東大やろ」って。

大矢知 ゼミはどんなの取ってました?

鈴木 財政学でした。今、地方財政審議会の会長されてる神野直彦っていう先生のゼミでした。飲み会しか行かなかったですけど(笑)。大学ではテニスサークルに入ってて、学生生活は「バイトかサークルか」みたいな感じでした。

大矢知 どんなバイトされてたんですか?

鈴木 色々やりましたよ。宅急便の集配所で荷物を分ける仕事とか、テレビショッピングの電話オペレータとか。もちろん家庭教師や塾の講師もやりました。でもそういう変わったバイトの方が勉強になりましたね。友だちもできたし。

大矢知 関西から東京へ行かれて、何が一番ビックリしました?

鈴木 関西弁を喋ってるだけで面白いことを言わなきゃならないっていうプレッシャーはありました(笑)。あと、うどんやそばがまずかった。つゆが真っ黒で。東京の人に怒られるかな?

大矢知 それ、みんな言いますね。

鈴木 あと、電車が便利やなって思いました。それと物価が高いなって。

大矢知 そういう話聞いてると、ほんとに普通の人ですね。

鈴木 ふつうふつう。いたって普通です(笑)。

大矢知 通産省に入ろうと思ったきっかけは?

鈴木 大学3年の時、どういう職業に就こうか考えたんです。でも何がやりたいかわからなかったんで、とにかく「おもろい奴がいるとこに行こう」って決めたんです。それは民間かもしれないし公務員かもしれない。それで各業界のトップ5ぐらいを回って、公務員試験も受けました。各省庁が東大の近所の喫茶店で説明会みたいなのをするんですけど、色々回ってみて通産省、運輸省、大蔵省が面白そうだなって思いました。

大矢知 喫茶店で説明会やるんですか?

鈴木 そうなんです。囲い込みですわ。喫茶店に来た学生をチェックして、電話かけてくるんです。それで、一番面白そうだったのが通産省でした。

大矢知 通産省、面白そうですよね。

鈴木 その時一番面白かった面接官が「行政改革とボンカレーの関係を述べよ」って言うんです。当時の行政改革ってのは公務員の削減とかじゃなくて、中央省庁をどう変えるかがテーマなんです。適当に答えたと思うんですけど、彼は「ボンカレーのCM知ってるか?おせちもいいけどカレーもねってやつだ」って言うんです。それは後にククレカレーのCMであることが判明するんですが(笑)。で、彼が言うには「正月だからおせちしか食べられませんと言うのは供給者の論理だ。カレーを食べたい人にいつでもカレーが食べられるようにするのが受容者の論理だ。こういう政策しかありません、こういう政策しか作れません、という供給者の論理じゃなくて、こういう政策を作って欲しい、こういう政策をして欲しい、という受容者の論理に変えるのが行政改革だ」って言うんです。「おもろいこと言う人がいるなぁ」と思いました。そういうこともあって、通産省に入りました。

大矢知 面白かったですか?

鈴木 ええ。間違いなく面白かったです。僕は10年間しか勤めてませんけど、新規プロジェクトに6つ携わりましたし、最初は経産省を取りまとめる経営企画室にいたので、経産省全体の動きも勉強できました。安部政権の1期目の時は官邸にも行かせてもらいましたし。

大矢知 経産省の人って、意外と辞めて民間に行く人が多いようなイメージがありますが。

鈴木 そうですね、多いですね。政治家か、民間だとコンサルが多いですね。僕は役所やめてコンサルやるというのは極めて中途半端だと思うんです。役所でビジネス環境作りをやって、次にプレイヤーである民間企業に行くならわかるんですけど、その中間の「ルールをうまいこと使ってプレイヤーを動かす」みたいな立ち位置に行くのって、どうなん?って。それなら官僚でもええやないか!って。

大矢知 同感ですね。でもコンサルでも「トヨタでカイゼンやってた人がコンサルになる」ってのは違いますよね。

鈴木 そうですね。民間出身の人がやるのはいいですね。

大矢知 それで、具体的に政治家になろうと思ったのはいつ頃ですか?

鈴木 政治に興味関心はあったんですが、具体的に思うようになったのは、役所に入って政治の役割を考えるようになってからです。役所の枠に捉われるんじゃなく、日本全体を考える政治家の立場にいつかなりたいなぁと。それが加速したのは安部政権のスタッフとして官邸にいた時です。役所の人たちが総理大臣の足を引っ張ったり、自民党の政治家が役所の人たちに政策を丸投げして、自分たちは選挙活動ばかりやってる。そういうのを間近に見て「変えなアカン」って思うようになりました。

大矢知 鈴鹿2区で衆院選に出られましたよね。どういうきっかけで鈴鹿2区だったんですか?

鈴木 中央省庁の繋がりで自民党の先生と何人か知り合いになったんですが、その自民党が立候補者を選定する時「あそにが人がいない。そういえば鈴木英敬って三重が本籍地らしいぞ」って事になりまして。でも行っても同級生も親戚もいないし…。

大矢知 当時、川嶋の桜祭りって行かれましたよね。

鈴木 行きました、行きました。

大矢知 僕その時、隣にいたんですよ。それで話とか聞いてて「この人、凄い人やなぁ」って。その時からずっと思ってたんです。

鈴木 そうなんですか。ありがとうございます。

大矢知 三重県って細長いじゃないですか。僕らからみると、北勢、中勢、南勢、伊賀、東紀州って、全然違う場所なんですよ。なんでこんなにキャラが違うんだろう?って思うぐらい。その中で、北勢地区についてどんなイメージをお持ちですか?

鈴木 間違いなく産業の、働く場の中心地ですよね。人口も多いですし。そういう意味では、北勢地区の人たちがもっと三重県に帰属意識を持って「俺らで三重を盛り上げようぜ!」っていうエンジンになってくれると、三重県のパワーが加速すると思うんです。もちろん良いモノや珍しいモノは南の方に多かったりしますけど。三重県は多様性はあるんですけど、一体感にちょっと欠ける気がするんですよね。

大矢知 まったく、おっしゃる通り。

鈴木 英語で言うとbeautifulやsmartはあるけど、energyやpowerはちょっと欠けてる。

大矢知 それはこの北勢地区が地理的、歴史的に昔から恵まれた土地柄である事が影響していると思います。思いやりの心が感じられるし、起業の面でも比較的ハードルが低いです。おっとりしているかと思えば、その反面、世の風を読むのが上手く、転身が早い経営者が多いとも感じます。でも、ある業種が儲かりそうだと、右にならえ的に参入する人も多く、少し独創性に欠けるように感じる面もありますね。

鈴木 そうなんですか。

大矢知 その経営者層のうち若手経営者の集まりといえば、JC(青年会議所)ですが、今メンバー数の大幅な減少などの問題を抱えています。何か感想なり、ご意見はおありですか?

鈴木 そうですね。JCとか楽しいし、そこにいる人たちも楽しいけど、年度の事業をやることに追われていて、ほんとに「地域のために汗かいてる」感はないですね。手段が目的化してるみたいな。

大矢知 ちょっと自慢なんですけど、僕がJCの理事長だった時、継続事業全部やめたんです。もう、怒られまくり(笑)。

鈴木 そりゃOBに怒られますよ(爆笑)。

大矢知 継続事業ばかりだと新しいもの出てきません、やめましょうって。

鈴木 その通り!!すごい改革ですね。

大矢知 ちょっと余談になりました(笑)。そろそろ時間なんで、最後に知事の目標みたいなものを聞かせて下さい。

鈴木 僕の知事たる使命は、三重県の今ある魅力を守りつつ、一体感とかエナジーとかパワーといった新しい魅力を三重県につけることだと思うんです。そのためには、北勢の人たちが三重に帰属意識を持って、三重のことを好きになって、それをどんどん発信して欲しいですね。それには大矢知さんたちに頑張っていただきたいです。

大矢知 具体的にそんな動きができたらいいなと思いますね。

鈴木英敬氏プロフィール

昭和49年8月15日生まれ。灘中、灘高を経て、東京大学経済学部卒業。平成10年通商産業省(現経済産業省)に入省。中小企業支援、特区や農商工連携といった地域活性化などを担当。第一次安倍政権時には官邸スタッフとして、教育再生や地球環境問題に取り組む。関西芸人ばりのトークを駆使しながら「年中無休24時間」の行動派官僚だったが、平成20年退職。第45回衆議院選挙に三重2区から立候補するも落選。平成23年、三重県知事就任。妻は、元シンクロナイズドスイミングアテネ五輪メダリスト武田美保。特技は結婚式の司会(これまで披露宴は25回!)。尊敬する人物は坂本龍馬。

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