【写真】佐藤専務
モノをつくるだけではない。働く社員の自己充実を助け、ハンディを負った人にも目を向ける。会社は社員の人間力を鍛える場でありたい。自己の能力を活かし、社会に貢献できることの喜びと誇り。めざすべき真の「働き方改革」がここにある。社会に必要とされる会社であるために―。
鏡谷有紀 (株)フジ技研取締役常務、(株)フジ技研カゴシマ代表取締役社長
秦耕平 (株)フジ技研総務部課長技師
― 自動車業界全体の課題について教えて下さい
佐藤専務 課題は大きく2つあります。一つは、電気自動車や水素自動車に代表されるエコカーの普及です。しかしながら、補給ステーションが少なく、しかも充電に時間がかかることから普及が進んでいません。当面はハイブリッドカーが中心になるのではないでしょうか。もう一つは自動運転の問題です。高齢者の自動車事故が後を絶ちませんが、一日も早い防御技術の確立が望まれます。思えば、自動車業界では、ついこの間まで燃費の良さが求められていましたが、今はもっぱら安全技術。毎日のように交通事故の報道があり、切実な問題です。
― 御社の事業内容は?
佐藤専務 私どもは自動車の金属部品(シート部品、ボディ、介護車用部品など)の試作製造を行っています。試作製造には2種類あって、次期販売予定の新型車を試験的に製作する仕事と、未来を予想して研究開発として行う仕事に分かれます。後者は、例えば、燃費を良くするための材質の軽量化とか、電気自動車向けに従来のエンジン部分を自由にレイアウトできないかとか、自動運転が現実化した未来のための提案といったことです。
― 工作機械はどのようなものをお使いですか?
佐藤専務 一連の作業を1ヶ所ですべてやりきる。つまり、求められるのは「ワン・ステップ」です。ユーザーとしても、仕事のたびに製造会社を変えていては非効率です。そこで、あらゆる仕事に対応できるよう設備投資を進め、すべて自社内で仕事を完結できるようにしています。今、お客さんの要望は高度化していますから、最先端の技術で応えなければなりません。現在は会社全体で毎年5億円規模の投資を行っています。工作機械はオークマ、三菱電機などの日本製の工作機械が大半ですが、ドイツ製機械の導入も進んでいます。開発品を創るとなれば、工作機械にも凝る必要があります。
― 自動運転となれば自動車の部品も当然変わります。製品が変われば道具である工作機械も変えなければいけないのですか?
佐藤専務 新しい技術は海外とくに欧州に見られ、工作機械もまた欧州に画期的なものが散見されます。例えば、今、同時五軸制御型の加工機の導入を検討していますが、日本ではまだ同時三軸加工が主流です。ドイツはすでに五軸加工が主流になっています。
― IOT(モノのインターネット)への取り組みは?
佐藤専務 工作機械をLANとインターネットに繋いでデータをやりとりするシステムで、今後業界ではビッグデータを集積し展開しますが、私どもでは従来行ってきており、目新しい概念ではありません。
秦課長 機械がインターネットにつながっていて、作業中に不具合が生じた場合、メーカーからアラームが入る仕組みです。IOTはそれらを含んだ概念です。
佐藤専務 私どもでは20年前からすべての工作機械やPCを工場間(鹿児島とタイランドの支社も含めて)で繋げ、インターネットを通じて情報のやりとりを行っています。お客さんの要望に応えるため設計変更も頻繁に行って、リアルタイムで相手に伝えています。
― 業界全体のテーマである「省人化」「省力化」に向けて、御社の取り組みを教えて下さい。
佐藤専務 私どもの仕事は開発業務ですから、職人芸に近いと言えます。ロボット作業には馴染みません。とはいえ、いずれは新商品を大量生産することが目的ですから、量産品と同品質の試作品を作るために、溶接系のロボットの導入も積極的に進めています。
秦課長 創業30年程の若い会社です。最先端の機械を導入して、職人に負けないモノづくりを行っています。職人の技をデータ化して、社員に使えるよう教育するわけです。ただ、就業時間が限られるため、いかに効率よく技術を習得してもらうかが課題です。
海外進出について
― タイを選んだ理由は?
佐藤専務 海外進出にあたっては、国民性を重視しました。タイは仏教国ですから、日本人とは感性が似ているだろうし、日本人もそこで生活しやすいのでは?と考えました。また、人の問題もあります。タイで安い労働力を求めたわけではありません。研修生として受け入れ、人財として大切に扱い、高い技術を身に着けて、私どものタイ法人へ戻しています。タイで芽が出たら再び日本へ戻し、さらに実力を付けていただく。これを繰り返しています。私どもは職人業ですから、技術の研鑽を続けなければいけません。こうした関係性を維持できるのがタイの人たちなのです。現在、60人ほどを雇用しています。
― 海外進出で次に目指すのはどこですか?
佐藤専務 営業戦略のためにアメリカ合衆国に挑戦したいです。しばらく国内で大規模投資が続くため、それが落ち着いた段階で考えます。
― 日本国内では鹿児島にも子会社があり、社長が女性ですよね。
佐藤専務 赤字だった子会社に寝泊まりし、現場指導にあたったのが鏡谷です。本社から売上や利益等の高い目標を提示しましたが、社員を巻き込んで改革を進め、見事に高収益の会社にしました。その彼女に現在、社長職をお願いしています。「女性社長」として注目され、経営的にも順調です。
社員が元気な職場
― 会社の経営環境について
佐藤専務 3割以上を女性が占めています。半数以上がプロパー(新入社員)で、4割程度を中途採用にしています。
秦課長 かつては当社も残業が多かったのです。しかし、それでは社員が定着しません。働きやすい職場環境を提供し、落ち着いて仕事をしていただくことで技術力向上につなげています。
佐藤専務 残業時間を減らし就業時間を短くして、長期間勤めてもらえる体制に切り替えたのです。
鏡谷カゴシマ社長 中小企業こそ、きめ細かな働き方改革ができると思うのです。中小企業が生き残るためには、「今後は終身雇用を期待できない」とする大企業とは裏腹に、終身雇用をうたいながら社員とともに歩む会社づくりが必要です。
佐藤専務 役員との距離が近いため、介護や育児など個々の家庭の事情を配慮し、転勤や勤務形態等を調整できる点が中小企業の良いところです。その結果、社員の定着率が大幅に向上し、会社の方も助かっています。
鏡谷カゴシマ社長 「ピンチはチャンスです。「ワーク・ライフ・バランス」の考え方が浸透した今、当社にとって飛躍のチャンスだと思っています。
佐藤専務 先ほど、当社の設備投資の話をしました。私どもが7年ほど前から毎年5億の設備投資をしてきたのは、物理的に生産力を上げて残業を減らす目的がありました。精神論で残業を減らすのには無理がありますし、仕事を効率化するには工夫の積み重ねが必要です。まず、環境を変えてしまうことです。
鏡谷カゴシマ社長 女性が活躍できる職場でもあります。経済産業省・中部経済産業局が紹介する「女性の活躍に取り組む中部のものづくり企業」として取り上げられています。(https://www.chubu.meti.go.jp/b12mono_woman/kigyou/kigyou019.html)女性社員には、安全衛生委員会など重要な会議にも出席して、意見を出してもらっています。
佐藤専務 そうした女性たちに気持ちよく働いてもらうためにも、職場環境を整えることは会社の義務だと考えます。トイレ、化粧室、食堂など清潔に使い勝手をよくしています。福利厚生施設も現在建設中です。
鏡谷カゴシマ社長 社員の健康維持のためスポーツジムなどの建設も考えています。また、仕事や労働環境などをテーマにした講習会を定期的に開催し、仕事へのモチベーションを高めています。また、障害者雇用や社員のお子さんを預かり、就業を続けていただこうと託児施設の計画もあります。社会に必要とされる会社でありたいと思います。
― まさに、働きやすい環境づくりですね
鏡谷カゴシマ社長 働き続ける上での心配要素は何か、困っていることは何か、社員から要望を挙げてもらう形で、働きやすい環境づくりに取り組んでいます。
佐藤専務 工場建設や設備投資は7年前に計画した第1弾が終了です。2年くらいは社員の社会教育に力を入れます、世の中のことを知ってもらおうと思います。その後は第2弾の大型の設備投資の計画を実行します。
鏡谷カゴシマ社長 やはり、最後にモノを言うのは人間力。5年後には私たちの経営方針が社会のスタンダードになっていることでしょう。大切なのは人間力です。以前、「会社の変えたいところは?」と社内アンケートを実施したことがあります。圧倒的に「不満はない」という回答でした。ただ、「現状に満足」というだけでは、将来的に会社の衰退を招きかねません。更に、働きがいと働きやすさが両立した会社を目指すため、外部の専門家の指導を受け、「女性が働きやすい会社」と題し、女性社員の声から会社を変えていく動きも進めています。
本人の持てる才能を評価され、自己都合も受け入れられて、伸び伸び働くことができる。そして、停年制度もない。なんとも鷹揚で懐の深い企業である。社員は、水を得た魚のごとく、自由に可能性を求めて自分を高めている。
株式会社フジ技研
〒511-0275
三重県いなべ市大安町鍋坂2262-8
TEL:0594-78-0200
FAX:0594-78-0450
事業内容:自動車試作部品開発支援
主要製品:自動車試作部品・金型、各種治具・専用機
創業:1988年2月
従業員数:135人
WebSite http://www.fujigiken.jp/
株式会社フジ技研カゴシマ
〒899-8606
鹿児島県曽於市末吉町深川11111-6
TEL:0986-28-0505
FAX:0986-28-0506
事業内容:自動車部品用の検査治具の設計・製作
主要製品:検査治具、加工治具、溶接治具、部品加工
創業:1999年4月
従業員数:58人
Fujigiken (Thailand) Co., Ltd.
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