三重の企業人たち

株式会社ナベル社長 / 永井規夫

永井規夫 ナベル

ユニークな発想で業界全体を主導する株式会社ナベル。国内NO.1蛇腹メーカーとして、ユニークな製品の開発に日々チャレンジする永井社長にお話しを伺った。

創業について

 1972(昭和47)年、父がカメラの蛇腹専業メーカーとして立ち上げました。大判カメラ、レンズフードなどに使われる蛇腹です。ある時、米国の大手カメラメーカー、ポラロイド社から引き伸ばし機の蛇腹の大量発注を受け、1650台提供しました。ただ、ビニール製であったから「高熱ランプを使うユーザーであれば溶けたり伸びたりするのではないか」と急きょポラロイド社から耐熱性の有る対策品を造ってほしい旨、依頼があったようです。両親は不眠不休で働き、納期3ヶ月であったにもかかわらず2ヶ月で納め、高評価をいただきました。すると、さらに超ド級のオーダーが来ましてね。これまでの10倍、月産1万台にしてくれと言うのです。これには驚きました。なんでも、インスタントカメラ用の蛇腹として搭載したいらしいのです。
 しかし、当時、私どもの会社は9人体制でしたから、とても手が回る状態ではありません。寝ずの仕事でも千台がやっと。ですからお断りしました。競合メーカーであったフジフィルムさんもインスタントカメラを製造していて、結局そこに採用されました。もっとも、千台しか造れないのは問題です。そこで、父は量産体制を構築しようと、手間のかかっていた印刷工程をシルクスクリーンプリントで省力化することにしました。それまでは手作業だったのです。皮肉にもポラロイド社に採用されなかった悔しさから発案されたものが、最初の特許となりました。
 ところが、またも問題発生。円高不況です。カメラの蛇腹が大ダメージを受けました。そこで、特許や素材のことをもっと宣伝してほしいと父から頼まれ、DMを作りました。『企業年鑑』を頼りに500枚送付し、その後、電話確認を行いました。1軒だけ反応があり、「うちは医療機器を扱っているので、黒の蛇腹など縁起でもない…」と。電話の主は京都の島津製作所さんでした。

コスト削減で業界全体に還元

 父と一緒に島津製作所に伺うと、意外にも待ってたとばかりの大歓迎ぶりで、その場でCTやMRIのテーブルカバーの製造依頼を受けました。1枚のDMがこうして異業種の異なる分野に行き着いたわけです。ただ、問題はありました。「見た目が悪い、重い、コストが高い」というのです。
 さっそくサンプルをもらって分析し、重い鉄をアルミニウムに代え、しかも溶接要らずのチューブ形にすることを考えました。これなら見た目もきれいで、軽く、コストも安価。期待どおり即採用でした。
 半年後、製品を持参すると、さらに東芝さんと日立メディコさんを紹介してくださいました。島津製作所さんだけに留めず、業界全体を潤すことをお考えになったのだと思います。営業を重ねるうち、私どものファンになってくださって…。島津製作所さんからは最終的に測定機器の蛇腹もご注文いただきました。

営業の鉄則は、顧客の困り事へアプローチすること

 営業の際には相手の困り事をうかがうようにしています。これは、私どもの基本姿勢です。たとえば、新日本工機さんからの相談は「レーザービームの反射光で蛇腹が燃え、火災にならないか」というものでした。まったくそのとおりで、蛇腹が燃えてしまうようではいけません。ただ、耐久性を考えるなら素材には織物や布が向いているし、燃えにくさを求めるなら石や雲母、ガラスが適しています。したがって、耐久性をよくすれば燃えやすいものになるし、反対に、燃えないようにすると重くて動かない。この矛盾を、複合形態すなわち外は燃えにくい素材を用い、内側にアルミニウムを貼ることで解決しました。すると、新日本工機は大絶賛。レーザー加工機の蛇腹を発注いただけました。後日、テクノフェアでも、カメラ、医療機器に加え、工作機械への進出をうたって、この新アイデアの蛇腹を出展しました。すぐに三菱電機名古屋製作所から連絡が入り、ラボでテストを行った後、各種機器へ取り付けて頂きました。
 ユーザー層を広げ、コストを削減して業界全体に還元することを経験的に学んでいましたから、特許を出願し、業界全体に提案して行きました。今では日本のほとんどのレーザー加工機に弊社の蛇腹が採用されています。変らずこれからも、顧客の困り事に対する解答案を示していく考えです。

海外展開のあり方

 昔、父が倒れたとき、後を継ぐのが恐かった。心配でした。三重県内でカメラの蛇腹を必要としている企業はありません。ですから、二代目として、カメラの蛇腹を一歩進めるつもりで海外への展開を考えたのです。時代の変遷とともに物事は変って行きます。ですから、時代の二ーズに合わせて動きはじめたわけです。もう一つは国際的な展開です。1998年に米国に進出しました。現地化、すなわち当地でものづくりを進めるためです。90年にドイツ・ケルンの国際写真見本市「フォトキナ」に出品したとき、さっぱり売れなかった。為替の問題があるし、日本が極東にあるためデリバリーコストがかかりすぎるというわけです。それならというわけで、現地法人を立ち上げ、売上分のロイヤリティをいただく形を構築しました。もちろん、引き換えに特許や素材、マーケティングなどの情報は提供します。こうして、2012年には中国江蘇省、15年には韓国ウルサンへの進出を果たしました。次は台湾への出店を目指しています。
 OEMで部品の生産を行ってきましたが、見直すべき時期にあるのかもしれません。品質においてはやはり日本が一番です。海外の工賃が値上がりしていることを考えると、日本に引き上げることを視野に入れなければなりません。そろそろ日本の良さを日本人自らが再認識すべきでしょう。ただし、事は簡単ではありません。そこで打ち出したのが「ドクター・ベローズ」構想です。20年ちかく世界中に販売してきたナベルの蛇腹がまもなく更新期を迎えます。また、他社メーカーの蛇腹をナベルで修復してほしいという要望があるとも聞いています。「ドクター・ベローズ」は、ポスト大量生産大量消費時代を見据えたもので、市場にある消耗品的なものをすべて引き受けようという試みです。エンドユーザーが他社メーカーに対して抱いている不満や諦めを知ることができ、私どものものづくりが深まって行くように思うのです。

三重大学と折り畳み式ソーラーパネル開発

 父から仕事を受け継いで4年目の年、経営者になって売上15億円から25億円を超えるまでに伸ばし、まさに急成長の時代でした。ところが、リーマンショックで梯子をはずされました。社員275人を抱えながらの経営は本当に苦しかった。ある講演で大量生産・大量消費の時代から、ものを大事に使う時代へ変って行くだろうことを聴き、これまでの取引にはなかった業界(再生可能エネルギー、ナチュラルテクノロジー、メンテナンス、農林水産業など)への進出を考えました。特にCO2削減に関心がありました。ただ、太陽光発電や風力発電にナベルの技術を結び付けたい考えをもちながら、アイデアが思い浮かびませんでした。
 悩んでいたとき、東日本大震災が起こった。差し上げた見舞いの電話に出た宮城県白石市教育長が言うには「水も食糧も要らない。乾電池を送ってほしい」とのこと。このとき、にわかに蛇腹とリンクしました。蛇腹を広げて太陽光を集め、折り畳んで持ち運ぶ。自前で電気をつくることを思いついたのです。そして、三重大学と共同開発したのが折り畳み式ソーラーパネル「ナノグリッド」です。畳んで専用リュックサックで運べ、発電出力は72W。リチウムイオン蓄電池と合わせ、重さは7キロ弱。現在開発中の1500WHの蓄電力があればアウトドアライフでも使えます。販路開拓はこれからですが、製品には自信を持っています。

テーマは「中小企業の継続的発展」

 法学部で学び、弁護士をめざす課程で培ったリーガルセンスは確かに経営上、役立つものでした。なにより、法的な責任の範囲が解ります。しかしそれで充分というわけではありません。ビジネスの世界は必ずしも四角四面でいかないことがあるのです。そして、英語は重要です。グローバル時代にあっては、英語を話す、書く、読めることは必須であるように思います。
 現在、三重大学大学院に学んでいます。博士論文を執筆中で、テーマは「中小企業の継続的発展」。私どもの経営課題でもあります。では、どうしたら中小企業が発展していくのでしょうか? 課題を整理すると「他社との競争」「人材育成」「金融機関に対する信用力の構築」になります。課題がわからないことが問題で、課題を洗い出せれば気持ちが前向きになり、解決に向けた工夫が生まれます。次に大事なのは自己の客観化。自分を外から見て、自信のあるところはさらに自信をもってよいし、弱点ならば、改めなければいけません。

経営哲学

 社訓として「温故知新可以為師」を掲げています。先人の知恵に学び、人の師とならんことを願っています。もう一つ、「陽転思考」です。事実認定した後、拙い点を放置するのではなく、それに取り組む姿勢は評価すべきと考えます。いつまでも失敗にこだわらずに超えて行こうとする姿勢が大切です。後継者問題については、従業員の成長と私の子供たちに期待しています。

株式会社ナベル

〒518-0131 三重県伊賀市ゆめが丘7丁目2-3
TEL 0595-21-5060
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