国産原料と天然醸造が生み出す?本物の味で消費者の強いナチュラル志向に応え、また、ハラール対応や子どものアレルギー対応にも目を配る。細やかな視点で社会のニーズを捉え、グローカルに事業を広げて行く。
貴社の沿革をご紹介ください。
本城 明治6年創業で、来年145周年を迎えます。私で5代目になりますが、元は接骨院だったらしく、どういう理由からか、醤油・漬物・味噌の製造と卸売業へと転身したようです。卸売部門に関しては、ナショナルブランドの特約店として150社程の食品(飲料、調味料、乾物)を扱い、伊賀を拠点に半径100km圏内のスーパーなどへ卸しています。また、製造部門は醤油工場の第2工場と、味噌や漬物佃煮、甘酒を生産する本社工場の2工場体制を敷いています。
私どもの自慢の商品の一つ「伊賀越漬」は、20軒程の農家さんから、6月から8月にかけて収穫される白瓜約130トンを仕入れ、翌年まで塩漬けします。取り出して輪切りにした白瓜の中に、醤油と味噌で漬けた大根やシソ、しょうが、キュウリなどを詰めて完成。キムチや浅漬けに押された時代もありましたが、ここ数年、こうした伝統食が見直されています。すべて国産の野菜が原料で、生産量は少ないながら注目を集めています。 醤油も味噌も、原料の大豆は国産です。
「伊賀越漬」は醤油からはじまった二次製品なんですね?
本城 そうです。
白瓜は大きすぎても、小さくてもいけないそうで、適正なサイズがあると聞きましたが。
本城 大根が大きすぎると、中身が空洞化するし、味も落ちて、商品にはなりません。白瓜は成長が早く、一日も目が離せず、農家さんには苦労をかけています。また、 高齢化にともない契約栽培が難しくなっているのが実情で、実は2年程前から農場を借りて自社栽培に取り組んでいるんです。
ハラール対応、アレルギー対応を考えた自慢の醤油
貴社製品の売上比率を教えてください。
本城 醤油7、味噌と甘酒と漬物佃煮が各1です。
御社の製造する「醤油」について詳しい話をお聞かせください。
本城 原料の大豆、小麦、塩は国産が中心です。製法も天然醸造にこだわっています。天然醸造というのは大豆と小麦で麹をつくり、塩水で発酵熟成させる製法です。自然に任せていっさい手を加えません。ですから、時間がかかります。発酵の過程で酵母や酵素、乳酸菌といった工業的に培養されたものを添加すると短時間でつくれますが、それは本醸造。天然醸造とは異なります。私どもがこだわるのがこの天然醸造と、国産の原料なのです。
価格的には一般の醤油と比べて高いのでしょうか?
本城 先代からの教えで、「良いもの=ジャストプライス」と考えています。良いものをつくっても高かったら売れませんので、ある程度量産化しています。価格設定についてはトップブランドの一番売れ筋の売価帯を狙います。中身は国産の原料で天然醸造ですから、実質的にワンランク上。売価帯は売れ筋ですけど、中身が違うわけです。私どもでは以前からこの考え方を徹底しています。戦後6千社あった日本の醤油メーカーは現在1297社。この中でも、麹からすべてつくっているメーカーは100社に満たないと言います。大半が「桶売り」といって、絞った半製品を買い付け、それをブレンドしているだけです。
天然醸造を行っているメーカーは、三重県では何社ほどありますか?
本城 天然醸造を量産しているメーカーは、私どものみです。名古屋ではイチビキさんがあります。
県産品とのコラボレーションなどを行っていると聞きましたが?
本城 熊野市の「新姫(にいひめ)」を使ったぽんずをはじめ、カツオやサバ、昆布からとった天然だし醤油、たまごかけしょうゆなど当世流行りの旨味やコク、ダシ感などを追及しています。
GAP(※1)との関連でお聞きします。製品はそのまま輸出できるのでしょうか?
本城 すでに中国、香港、台湾、欧米、豪州など20ヶ国へ輸出しています。EUへも適合する原材料であれば輸出しています。醤油は間違いなくOKです。
※1 農業生産工程管理(GAP)とは GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組みのこと。これを我が国の多くの農業者や産地が取り入れることにより、結果として持続可能性の確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化に資するとともに、消費者や実需者の信頼の確保が期待される。(農林水産省HPより)
※2 イスラーム法において合法なものがハラール
伝統製品を守りながら、イスラム圏への対応を進めているところがすごい!確か、ハラール対応(※2)の醤油を造っているのでしたね。
本城 はい、すき焼き用の醤油です。イスラム圏は豚肉が食べられません。これは、鶏肉と牛肉向けのタレなのです。
アルコール成分ゼロの醤油というのは?
本城 ものが発酵する過程でアルコールが発生しますが、そのとき熱を加えてアルコールを飛ばします。イスラム圏ではアルコールはNGです。ハラール醤油として販売しています。
同じ釡(調理器具)も使えないんでしたね。
本城 はい。他の商品との共用ができませんから、別棟でハラール対応専用の生産ラインを敷いています。
ハラール対応製品の採算性についてはどうですか?ずいぶん手間をかけて製造しているようですが。
本城 通常仕様の醤油の倍の価格設定です。特別の生産ラインを造って対応しなければならないし、その結果としてコストが上がります。一方、来日するイスラム圏の人々は必ずしも富裕層であるとは限りません。ですから、彼らにとって高価と映るでしょう。このジレンマによって浸透が進まないようです。
子どものアレルギー症にも対応されているとか。
本城 一般に醤油は大豆と小麦を使いますが、私どもでは3年前からグルテンフリー(小麦不使用)の醤油を製造しています。最近では容器も変えました。
商品開発はどなたが?これだけ多種類の商品を抱えるとなると大変ですね。
本城 すべて私の仕事です。年2回入れ替えを行っています。売行きの悪いものを持っていても仕方がありません。見込みのないものはどんどん切っていきます。
天然醸造にこだわり続ける
今後はどのような事業展開を?
本城 醤油や味噌、漬物など伝統的な商品とともに、消費者ニーズを取り込んだ新傾向のものにも挑戦して行きます。SKU(※)と言いまして、商品全体が多様性を帯びています。ニーズに応えるだけではダメで、消費者の志向性を先取りし、それを反映した商品を提案し続けたいと思います。
受け身ではなく、提案型、攻撃型の営業ですね?
本城 そのとおりです。最近になってようやく認知されてきたグルテンフリーなどは3年前の開発です。醤油メーカーとしては先駆的な方だと思います。パッケージデザインも斬新で戦略的なものをつくりました。他社に先駆け、新しいマーケットをつくっていきたいです。
なるほど、新しい市場をですか。
本城 しっかりした伝統商品を柱として守りつつ、新傾向の商品にもチャレンジしたいです。
※SKU Stock Keeping Unitの略で、最小管理単位のこと。基本的には同じ商品であっても、サイズや色、形状などが異なれば別々の単体として扱う。
本城 醤油の生産規模としては1297社のうち、15番目に位置します。ただ、中堅ながら、天然醸造という他社にはない強みがある。全国で製造される醤油のうち、この製法によるのものはわずか1%。このわずか1%の6割を当社が占めています。天然醸造に限れば、全国一の醤油生産量と言えます。量産化して価格を抑えれば、大手さんとも互角に競争していける。ですから、今後は業務用のカテゴリーも狙っていきたい。そして、輸出にも力を入れます。現状売上の5%程度ですが、これを30%程度に引き上げる計画です。
手間はかかりますが、天然醸造専門であるから強いのですね。
本城 ありがとうございます。本醸造では大手さんに太刀打ちできませんが、天然醸造で優位に立ちたいと思います。消費者の間にナチュラル志向が強まっています。添加物を使わない自然の味を求めています。それで、天然醸造が評価していただけているんだと思います。
先代から天然醸造にこだわり続けている理由は?
本城 正直なところ、技術が無かったのだ思います。効率を求めて機械化を進める大手さんとは違います。私どもにはそういう資本が充分にありませんでしたから、昔ながらの製法を続けてきたわけです。ただし、営業力は強化しました。
大手さんとは別の行き方ですね。市場は効率性を重視した商品に傾くか、あるいは本物志向とも言うべき原料本来の味を引き出す天然醸造を評価するか。貴社の今後の展開に期待しています。
自慢の味噌、甘酒、漬物佃煮
味噌 国産の大豆と米を原料に天然醸造で造ります。「玉みそ」は、大豆を玉状にして麹をつくる伊賀地方独特の製法です。米麹と豆にも麹を付けた〝100%麹〟の調合みそで、濃厚な味が特長。濃厚ですから、小量で味が伸びます。味噌はその土地土地の味があります。子どもたちにここ伊賀の味を覚えておいてほしいから、地元の学校給食に寄贈を続けています。
甘酒 味噌をつくる際に使う米麹と米で造ります。昔の甘酒を復活させました。酒糟と糖類は使いません。冬だけでなく、オールシーズン向けのヒット商品で、夏場はシャーベットでも美味しくいただけます。
漬物佃煮 醤油と味噌と漬物、ほぼ同時進行でした。原料の山ぶき、えりんぎ、しめじなどは難しくなりましたが、国産の原料にこだわっています。量産できるものではありませんが、こだわりの逸品として提供しています。