マイクロキャビン創業者・大矢知直登がホストを務める「プラス対談」。元鳥羽水族館副館長で、現在は水族館プロデューサーとして全国的にその名を知られる中村元氏の登場だ。サンシャイン水族館、新江ノ島水族館、山の水族館などを成功に導いたそのノウハウを、ユーモアたっぷりに語ってくれた。
水族館は魚好きな人が行くところという常識は間違っている
大矢知 プラス対談、今回は有名な水族館プロデューサーの中村くんです。友だちなんで、中村さんではなくくんと呼ばせてもらいます。中村くんの枕詞につくのが「元鳥羽水族館の‥」ですけど、今は「水族館プロデューサー」の方が有名ですよね。友だちにこんな有名な人がいるなんて嬉しいです。昔を知ってるだけに(笑)。
中村 昔もちゃんとやってましたよ(笑)。
大矢知 そうですね。いろんな事件もあったけど、ちゃんとやってましたね(笑)。中村くんと知り合ったのはJC(青年会議所)の時です。僕が四日市JCの理事長で、中村くんが三重のブロック長で、一緒に青年の船に乗りました。朝から晩まで一緒一緒に青年の船に乗りました。朝から晩まで一緒にいるからすぐに仲良くなりましたね。中村くんは経済学部出てるんですよね。なぜ水族館に就職したの?
中村 ちょっとした縁があって入ったんですけど、普通、水族館に入るっていうと、飼育系の水産を上がってる人とかが多いですよね。でも僕は経済学部経営学科卒なんで‥。
大矢知 それが良かったのかもね。経営者的な目があるんですよ。
中村 学生時代は全然勉強してなかったですけど‥。でも卒論は、先生が一番不得意そうなテーマを選んだんです(笑)。タイトルは「マーケティングに於ける女性購買心理」。まだ女性が購買力を握ってるってあまり言われてない頃でしたけど、よく考えてみると、購買力を握っているのは女性なんです。車だけは男の買物だと思うでしょ。違うんです。男は女にモテたいから車を買う。じゃ、なぜ皆がスポーツカーを買わないのか?理由は似合わないからです。だから自分に似合う範囲で女にアピールできる車を買う。で、結婚するとファミリーカーに変える。子供ができてもスポーツカーに乗ってる男は、他でまだモテたいんです(笑)。
大矢知 なるほど、言われてみればそうだよね(笑)。
中村 水族館って皆、魚が好きな人が来ると思うでしょ。でもそんな人、ほとんどいないですよ。全国で水族館へ行くのは年間3千万人。でもそんなにさかなクンがいるはずがない。あんなに魚が好きなのは千人に一人です。水族館は魚好きな人が行くところ、子供が行くところ…そういう常識は、実は間違っているんです。
大矢知 それに人より先に気づいた。
中村 鳥羽水族館で働きはじめてわりとすぐ気づきました。で、どうすればお客さんを増やすことができるか?と考えた結果、飼育と展示は別のものだって結論にたどり着いたんです。人が水族館に行く理由は、非日常を楽しむことができる場所だからです。
お客さんは動物じゃなくて水塊を観に来る
中村 マーケットを探り出す方法ってあると思うんです。僕は鳥羽水族館時代、お客さんの後をついていって、どの水槽を見てどの水槽を見ないか調べたんです。そしたら、驚くことがわかりました。お客さんは平均すると、展示のうちの半分しか観ないんです。で、誰もが見る水槽は決まってる。明るい水槽、青い水槽です。緑の水槽は見ない。その事実を分かり易くするために「水塊」という言葉を作ったんです。水塊っていうのは、お客さんを「水中へ入った」って感覚にさせる青い水の塊りです。お客さんは動物じゃなくて水塊を観に来るんです。だから水塊を作ればお客さんが来る。今までの水族館は「他の水族館のあの水槽が人気だから真似しよう。でも金がないから小さくしよう、あるから大きくしよう」って、その程度のことしかしてこなかった。僕はサンシャイン水族館の水槽を作る時、目標にしたのは美ら海水族館の水塊なんです。水塊をあれよりも大きく見せてやろうって考えました。
大矢知 サンシャインは行ったことないけど、美ら海水族館は好きで5~6回行ったかな。一番大きな水槽の横にカフェあるじゃない。そこに座ってコーヒー飲んでボーっとしてる。近所だったら毎日行ってもいいな。
中村 魚なんて観てないでしょ(笑)。
大矢知 たしかに観てない。時々、魚が寄ってくるって感じ(笑)。あの奥に深海魚のコーナーあるでしょ。観ないんですよ。気が滅入ってくるから。
中村 あの深海魚の水槽観る人、少ないんですよ。
大矢知 山の水族館は3億でやったんだよね。
中村 3億はきつかったです。芸能人の立派な家って3億はかかってますよね。それと同じ金額ですから、どんなに大きくしようとしたって無理なんです。それに冬は寒すぎて人が来ない。弱点が多かったですね。それでよくあそこまでやったと思います。
大矢知 サンシャインはどれぐらいかかったの?
中村 サンシャインは30億。建物の中のリニューアルだけですけど。新江ノ島は建物から作ったから60億ぐらい。一番お金がかかってるのは名古屋港水族館の400億かな。
大矢知 事業として元取れるの?
中村 取れますよ。サンシャイン水族館の場合、社長から「年間入場者数110万人を目標にしたい」って言われたんだけど、僕は「140万人はいけます」って答えたんです。でも実際には224万人来ました。
大矢知 凄いなぁ。
中村 山の水族館は、それまで2万人だったのを5万人にしたいって言ってたのが、もう30万人です。あそこは一番弱点が多かったですね。金がないから外に穴掘ったとか、寒すぎるから氷を貼ったとか。弱点もやり方によっては武器になるんです。
大矢知 日本人って水を見るのって好きなのかな?
中村 間違いなく好きですね。
大矢知 私事なんだけど、ダイビングにはまってね。まだサイパンに2回しか行ってないけど、潜ってる夢見るんですよね。
中村 サイパンの海は色がキレイですからね。
大矢知 サイパンブルーってやつ。
中村 エメラルドグリーンからコバルトブルーに変わるグラデーションって、人間が一番好きな色なんです。
大矢知 下の白い砂と水の青が最高にキレイでね、涙出てくるんですよ。濡れてるから分からないけど(笑)。
中村 ぜひサンシャイン水族館のラグーン水槽観て下さいよ。白い砂がひいてあって、どこまでも続いてるように見えるんです。本当は小さいんですけど。あの水槽の前で毎日ボーっとしている人、多いですよ。大矢知さんならあれ観たら、すぐ海へ行きたくなりますよ(笑)。
弱点こそが進化の鍵
大矢知 中村流、人脈の作り方とかはあるんですか?
中村 自分から人脈を作りに行こうと思ったことはないですね。
大矢知 魅力があるから向こう人がから寄ってくるのかな。こう言ったら鳥羽の人に失礼かもしれないけど、鳥羽の素朴な人たちの中で、中村くんは全然違ってたからね。話が面白かった。面白いっていうのは、興味を引くってことね。
中村 四日市は都会ですよ。それに比べて鳥羽は凄く保守的です。気候がいいし食い物も多いから、保守的になるんです。それって進化の法則なんです。うまくいってる奴は進化しない。負けた奴が進化するんです。
大矢知 そういう意味では、日本いいかもね。この20年、負け続けてるから。
中村 いいと思います。戦争に負けた時、進化の力が働いたでしょ。日本人って負けた時に進化する力があるんです。日本人は「皆がやってるから自分もやる」ってとこ多いじゃないですか。狭いからそうするしかないんですけど。それが進化の原動力になる。逆に中国は悩んでると思うんです。どんどん進化してるところもあるけど、ついて来れないところもいっぱいある。水族館も同じで、リニューアルする際、大きい水族館ほど莫大な金を掛けないと変わらない。小さい水族館はわりと簡単に変われるんですけど。
大矢知 水族館ってどれぐらいあるの?
中村 僕が水族館のガイドに載せてるだけで115あります。小さいのや動物園の中にあるのも含めて。
大矢知 一番大きい水族館はやっぱ、美ら海水族館?
中村 実は名古屋港水族館なんです。
大矢知 へぇ~そうなんだ。あんまり宣伝しないよね。
中村 名古屋港水族館のシャチのプールあるでしょ。あのプールに美ら海水族館の全ての水槽の水を入れてもまだ足りないんです。あれは「屋根がないので水槽じゃない」という意見もあるけど、中に行くと窓があって水槽の機能をしているから、僕は水槽だと思ってます。
大矢知 2位は美ら海水族館?
中村 そうですね。
大矢知 3位は?
中村 難しいなぁ。敷地面積、水量、床面積、何をもって大きいと言うかですね。そういう意味では鳥羽水族館も結構大きいですよ。床面積なら一番じゃないかな。
大矢知 ここの水族館が面白いっ!てとこはあるの?
中村 実は、二見シーパラダイスを応援してるんです。最近流行りの柵なしのふれあいショー、サンシャインでも導入させてもらったんですが、あれを考え出したのは二見シーパラダイスなんです。あまり知られてませんけど。弱点こそが進化の鍵だということがよくわかる水族館です(笑)。ゾウアザラシやセイウチがいるんだけど、お金がないからステージが作れない。で、トレーナーの女の子たちが知恵を絞って「庭にブルーシートを引いてそこに出す」という方法を考えたんです。そこで「あっかんべー」をはじめたんですけど、普通にあっかんべーとかしてもウケなかったと思います。お客さんのすぐ近くでやるから、その親近感やふれあい感は凄い。鳥羽水族館と間違えて入ってファンになった人、たくさんいるんですよ。大分のうみたまご水族館がセイウチの柵なしショーでブレイクしたんですけど、そこの館長が「二見シーパラダイスの真似をした」って言ってるんです。「世界中の水族館を回ったけど、二見シーパラダイスの柵なしショーが一番素晴らしかった」って。それを真似して八景島がふれあいラグーンを作った。二見シーパラダイスは今でも最先端をいってて、トドを柵なしで出してくるんです。セイウチは優しいけど、トドは怖い。そのトドを駐車場に出すんですよ。あれにはビックリです(笑)。
大矢知 苦肉の策ってやつだ。
中村 窮鼠猫を噛んでますよね(笑)。二見シーパラダイスのかわいそうなのは、真似したとこがブレイクするのに本家はブレイクしない。ナショナルとシャープの関係のようですね(笑)。
大矢知 シャープが発明して、ナショナルが売り上げを上げる(笑)。
中村 でも僕は、そういう人たちを人脈にしたいですね。魅力のある人としか友だちになりたくない。
「面白い事しかやりません」って言ってると結果的に儲かる
大矢知 経営者の人脈っていうと、困った時に助けてくれる人なんだけど‥。友だちは友だち、仕事で役に立つのが人脈。
中村 事業で助けてもらえるような人脈はないですね。人生を生きる上で助けてくれる人脈はあるけど。そういう意味では、僕には人脈はゼロです。
大矢知 僕は人脈で助けてもらったなぁ。困った時、人脈のリストを見るんです。名刺とか見て「この人とこの人」って。それで会いに行ってヒントもらったり、その場で仕事もらったりしたこともあったかな。でもそういう人って、友だちじゃないよね。会ってくれる人っていうのかな。
中村 悪い言葉で言うと「金ヅル」ってことですね(笑)。
大矢知 そうそう(笑)。逆に自分がそうなったこともあるしね。でもボランティアじゃないから、ビジネスベースで考えるよね。そいつを助けるけど、リターンもあるだろうって。そいつの為だけってケースもたまにあるけど。
中村 やはり経営者ですね。僕はほとんどのことはビジネスベースで考えないんです。
大矢知 素晴らしい! 僕も最近、物事をビジネスで考えなくなってきた。会社背負ってないからね、全部自分の金だから。
中村 もちろんお金儲けは大事なんだけど「面白い事しかやりません」って言ってると、結果的に儲かるんです。最近やっと「あの水族館があんなに成功したのは中村が手がけたからだ」って広まってきて、ギャラが上がりました。「ウチも頼むわ」って言われて「高いですよ、僕は」って(笑)。
大矢知 そういう商売いいなぁ(笑)。
中村 あと、その人とは合わないと思ったらお断りします。
大矢知 僕は合わない人とやったことが何回かあるなぁ。このパートナーとはなんか合わないけど、お金的に凄く魅力だからって。
中村 それは会社でやってるからですよ。
大矢知 そういう時って、結構失敗するんですよ。例えばウチの社員が「今度は行けますよ」って言うんだけど、なぜか嫌な予感がする。そんな時は100%失敗する。
中村 それって、カンじゃなくって何か見えてるんでしょうね。
大矢知 そうそう、見えてるんだろうね。嫌だと思った仕事は断った方がいい。今なら断れるけど(笑)。
中村 気軽に断れるっていうのは、一人でやってる唯一の良さですよ。
大矢知 そうだね。会社やってると給料のこと考えてしまうからね。あと、一晩考えたら「しまった」ってこともあるんですよ。嫌な予感がして調べたら、それを裏付ける数字が後から出てくる。「あの会社こんなことやってたのか!?」って。でももう断れない(笑)。
中村 わかります、わかります。
大矢知 ま、失敗しないと学べないこともあるけどね。僕は結構ハイハイ言って断らないタイプなんで、それも原因かな。
中村 大矢知さんいい人ですから(笑)。僕はひとこと「うん」って言ったら、どこまで責任持たなければならないのか考えちゃいますね。
大矢知 僕は深く考えないなぁ。直感で仕事してたんで。だから成功も多いけど失敗も多かった。行きましょう!ってノリでやっちゃうんですよ。でもノリがなかったら会社興してなかったと思う。マイクロキャビン四日市を出した時、自分では借りれなかったから親父が国民金融公庫から100万円借りてくれて、親父も金ないから、その100万だけでパソコンショップ出したんです。
中村 100万で‥凄いですね。山の水族館みたいですね(笑)。
大矢知 開店前、3日寝られなかったですね。でも開店したら月商1千万円。値引きなしで。その半年間が一番面白かったな。売り上げがいくら、家賃がいくら、仕入れがいくらって計算してたら、会社やってないと思う。
中村 真似されたでしょ。
大矢知 そうそう。ウチの成功を見てパソコンを売る店がいっぱいできてね。「これはアカン」と思って、ソフトメーカーに転換したんですよ。
「常識はおかしい」と最初から決めてかかる
大矢知 最後に、分析力の話を聞きたいんだけど、どうやって身につけたと思います?
中村 自分でそんなに分析力があるとは思わないんですけど、「常識はおかしい」って最初から決めてかかるんです。違う方向から物事を見るというか「何か裏道があるはず」って。その方が早いしやり易い。数字じゃなくて真理を掴んだら勝ちなんです。水族館に就職した時、魚の名前なんか全然知りませんでした。だからまわりの人たちに勝てないんです。皆さん魚大好きな人ばかりですから。でもそこで「お客さんは魚が好きじゃないかもしれない。魚が好きってことを全部外して考えよう」って思ったんです。
大矢知 「中村式メソッド」ってとこだね。
中村 自分が一番最初に「こんな方法があったのか」と思ったのは、九九を覚えた時です。それまでは自分は賢い方だと思っていたのが、覚えるというところで挫折した。記憶力が悪かったんです。で、なんとかいい方法はないか?と考えて、九九は半分しか覚えなくていいと気づいたんです。五六三十と六五三十は同じですよね。だから六五三十は覚えなくてもいい。子供の頃からそんな感じでしたから、常識を信用しないっていうのがカラダに染み付いてるんでしょうね。
大矢知 そういう分析力って、他人より早くできるかどうかってことも重要だよね。「わかってたんだけど」って後から言ってもダメで、そこが成功する人としない人の違いかな。「水族館プロデューサー」って言葉も次の人、使えないよね(笑)。「日本で唯一の」ってキャッチフレーズつけたらどう?
中村 自分では言ってないけど、紹介される時は必ずつきますね。あと、さっき水塊って言ったでしょ。その水塊という言葉を商標登録っぽくしようと思って、僕の書いた水族館ガイドに「水塊とは自分が考えた言葉だ」って書いて、水族館を水塊度で計ってるんです。
大矢知 そういうことを考えれる人が凄いんだよなぁ。企業家セミナーとかで一度、喋って欲しいな。ボランティアだけど(笑)。
中村 続けるやつはお金もらわないといけないけど、単発ならボランティアでもいいですよ。話ししてて面白いから。
大矢知 先生、先生って言われて気分いいしね(笑)。
中村 でもあまり引き受け過ぎると、やはり嫌になりますね。昔、年間60回講演したことがあるんです。その時、思ったんです。ゴルフがどれだけ好きでも週イチ以下だろうって(笑)。今はゴルフの変わりにNPO活動をやってます。あれは仕事に対する刺激になってて、いい道楽なんです。よくゴルフしてる人が、本当か嘘か「ゴルフは仕事に役立つ」って言うでしょ。僕のNPO活動は、本当に役に立つんですよ(笑)。
新江の島水族館