セサミンを大量に含んだゴマ油の開発に着手
『九鬼特撰芳醇黒胡麻油』。美容や健康に良いとされる成分・セサミンを通常のゴマ油の約2・5倍も含んだ画期的なゴマ油だ。この商品を開発したのは開発部に勤務する原田千大。
彼がこの商品を作ろうと思ったきっかけは、ゴマ油の市場調査の結果だった。ゴマ油は他の油、キャノーラ油や大豆油に比べ、購入する際、価格が高くてもより健康に良いもの、香りがいいものが選ばれる特徴があることが分かった。特に年配の方になるほどそういう傾向が強い。年配の人ほど「お金が高くても健康に良くて香りのいいものを購入したい」というニーズがあるのだ。たまたま会社に、通常のゴマ油よりセサミンを3倍以上含んでいる特別な黒ゴマの原料があった。一部業務用で使っていたが、家庭用では使われていなかったものだ。原田は思った。「この黒ゴマを搾ればニーズに合うような製品ができるんじゃないか?」。
原田はさっそく試作プランを作って提出。商品開発会議でGOが出て、開発に着手することになった。
美味しくて健康に良いものを造るため、試行錯誤の日々
しかし研究室でこの油を絞ってみると、色素が出てしまってどす黒い。味も雑味が多くとても美味しいといえるものではなかった。色と味、この2点を改善しないと家庭用としては売れない。
「健康に良い油は市場にたくさんあります。でも美味しくないものを我慢して飲む、というものにはしたくなかったんです」。
原田は研究室で試行錯誤を重ね、味と色の問題をクリアしていった。「ノウハウになるので詳しくは言えない」ということだが、通常のゴマ油を絞る工程にある工程を加えることで、そうした問題を解決することに成功したのだ。中でも原田が特にこだわったのは「美味しいものを作る」という点だった。
「ゴマ油の味は薄いものから濃いものまで焙煎の強さによって変わります。例えば中華料理に使う芳醇な香りは、焙煎が強いほど出ます。でもこの商品は香りの強いものはしたくなかったんです。香りの強いものは毎日使うには少ししつこかったりする場合もありますから。ターゲットが50代60代ということで、和食などの繊細な味にも合うように、焙煎温度をできるだけ抑えた柔らかい香りのゴマ油に仕上げようと思いました」。
セサミンの結晶が詰まり充填ができない!?
こうした努力の結果、研究室でのテーブルテストでは満足いくものが完成した。次はそれを現場でどうやって製造するかだ。しかしここで難題が持ち上がった。セサミンの濃度が高すぎて油の中にセサミンの結晶が出てしまうのだが、充填の際、その結晶がフィルターに詰まって充填できなかったり、ノズルに引っかかって油が飛んだりした。原田は工場の人たちと協議を重ね、配管やノズルを換えることでこれに対処した。
こうしてついに、美味しくてセサミンをたっぷり含んだゴマ油が完成した。サプリメントではなく食品でここまでセサミンの多い食品は、今までなかった。
ネーミングとデザインも決まり、ついに発売へ
商品名とパッケージデザインを決める段階でも試行錯誤した。
「最初は『セサミンリッチゴマ油』といった感じのセサミンをうたった名前にしようと思ったんです。でもそれだとサプリメントっぽくなってしまいますよね。美味しくなさそうだけど健康にいい、みたいな」。
セサミンを前面に出した方がいいのか?伝統的なデザインがいいのか? 悩んだ結果、伝統的な高級ゴマ油のデザインに落ち着いた。しかしセサミンが多いというのは最大の特徴なので、字を赤くして目立つようにした。価格は650円。ゴマ油としては高価だった。2013年の6月、『九鬼特撰芳醇黒胡麻油』は発売された。
「予想としては富裕層にしか受け入れられないと思っていました。価格も高いし、発売当初はどれぐらい売れるか不安でした」。
値段が高いことから、当初は販売店に扱ってもらうのに苦労した。しかし店頭に並べてもらえさえすれば、それなりに売れることが分かってきた。
こうして『九鬼特撰芳醇黒胡麻油』は少しずつ売上を伸ばしていった。さらに売上が大幅アップする出来事があった。2014年6月、「三重セレクション」で多数の応募の中から上位3位の商品に選ばれたのだ。それがきっかけでメディアに取り上げられることも多くなり、その効果で売上も取扱い店舗も増えていった。
「特選芳醇ゴマ油を美味しくて毎日使っています。というお客様の言葉を聴いたりすると本当に嬉しいです。弊社ではで一人の人間が商品の企画から開発、パッケージデザイン、ネーミングまで全てを担当するので、自分が手がけた商品は凄く思い入れがあります。自分の子供のようなものなんです」。
一般の人たちにもっとゴマも奥深さを知って欲しい、と原田は言う。
「入社してゴマの種類の豊富さを知って驚きました。ゴマ油以外にも、つぶゴマ、すりゴマ、ねりゴマなど色んな種類があって、例えばねりゴマだと粒度の違いとか焙煎の強さで味が全然違うんです。家庭であまり使われてないんですけど『こんな料理に使えますよ』という感じでねりゴマの良さをアピールしたり。あと同じ油でもゴマ油はサラダ油と違って調味料に近いと思います。そんなゴマの素晴らしさを今後も発信していきたいですね」。
原田 千大
九鬼産業株式会社開発部商品開発課
明治大学、筑波大学大学院卒