三重の企業人たち

株式会社鈴鹿テクト / 前川泰彦社長

鈴鹿テクト 前川

人の暮らしに安定した電気を供給するため、送電工事や保守点検、情報通信工事、電設工事などを主業務とする鈴鹿テクト。その関係会社テクトサービスがスタートさせた介護事業もまた、人々が快適で、豊かな暮らしを送るために欠かせないサービスを提供している。異なるようで本質的には同じという二つの事業の苦労とやりがいについて、前川泰彦社長にうかがった。

万全の対策で日本のインフラを支える

 株式会社鈴鹿テクトは現社長、前川泰彦の父と他2名の共同出資により1964年に設立された電気工事をメインとする会社だ。創業当初は送電線工事と通信工事のみの事業内容だったが、現在は自家用電気工作物の点検、電気設備工事、メガソーラーなど事業を拡大。時代と共に業務の幅を広げている。
 泰彦は昭和52年に大学を卒業して、鈴鹿テクトに入社。7年間現場を経験した。入社後、長野県諏訪町に鉄塔の新設工事の建設に入ることになった泰彦は、現地で、ヘリコプターによる東京電力の500kvの大型建設を見ることになる。
「当時はまだ当社もそこまでの大規模工事を手がけていなかったので、いつか超高圧送電線に参入できたらいいなと悔しい思いをしたことを覚えています。でも、その10年後に中部電力発注の275kvの西濃西部線新設工事を受注することになり、長年の念願を叶えることができました」
 平成元年、泰彦は社長就任。先代の意思を継ぎ、日本社会のインフラである電力の安定供給の一翼を担ってきた。もちろん時代とともに変わる需要には常に敏感に反応。特に近年は大規模な自然災害が頻発し、電気業界もその対応にも追われている。同社は災害時の対応を強化するために、昨年から衛星電話を導入し台風、地震など自然災害発生時に即対応出来るよう、資材・機械工具の在庫を十分確保し、さらには緊急呼び出しに必ず駆けつけてくれる送電工事の電工を確保し、同時に社員間の安否確認もできるよう対策を施し、どんな災害被害にも即復旧できる体制を整えている。

後継問題、3K…、送電業務の抱える問題

 鈴鹿テクトの柱となる業務が送電線工事だ。鉄塔の基礎工事、組立、架線工事と送電に関わる業務をトータルで行っている。送電工事においては三重県で唯一の中部電力の元請け会社でもある。
 主軸になっている送電線工事だが、今、一つの問題を抱えている。それは電工不足だ。現在、全国で送電線工事を主とする会社はわずか100社ほどしかない。今やどんな山奥にも送電用の鉄塔が立っており、電気が人々の暮らしを支えているにもかかわらず、なぜこれほどまでに現場で働く電工が少ないのか。それには理由がある。送電線工事はキツイ・危険・汚いと言われる、いわゆる3K仕事だからだ。送電業務をこなす電工(送電専門の電気屋。地上50mの高さで作業をこなす職人)も東海三県でわずか500人程度しかおらず、どの送電会社も電工の確保には苦労しているという。
「送電線工事という仕事は、送電鉄塔の組立をはじめ、その鉄塔と発電所を電線で結び、電気を街まで送り、人々の暮らしに電気の安定供給させるためには欠かせない仕事です。しかし作業は常に危険と隣り合わせ。いくら万全の体制を取っていても、高所作業、高電圧、ハードな労働というだけで、なり手は少ない。だんだん職人の年齢層も高齢化が進んでいますし、今後はさらなる職人不足が深刻になると思います」
 現場は街中ばかりではない。むしろ、山岳地帯や誰も足を踏み入れないような山奥の現場のほうが多いくらいだ。車で行けるのは途中までで、足場の悪い山道を現場まで徒歩で向かうこともある。冬場は雪深く、体力、忍耐力、そして熟練の技が必要な仕事なのである。新規の送電線工事を行う際など、地元で職人が手配できない場合は、関西、北陸など他府県からも応援を頼むこともあるという。
やりがいのある仕事ではあるが、このままいくと、電工の増加は見込めず、工事技術の継承も難しいという現状なのだ。

電力自由化で壁にぶつかる~新たな事業への取り組み~

 2000年、電力自由化のあおりを受けて送電業界全体は大きなダメージを受けた。鈴鹿テクトも他社同様、仕事が大幅に減った。とある大手企業は銀座でラーメン屋経営を始め、とある会社はエリンギ・トマトなどを栽培、ゴルフショップを全国展開する会社も現れるなど、電力の自由化による穴を新たな事業展開で埋めるところが多かった。
 鈴鹿テクトも何らかの対策を取るべく、一般家庭用ソーラー発電の販売で盛り返しを試みた。しかしあまり長くは続かなかった。受注はかつてない大幅な減少となり、社員に早期退職を勧め、辞めてもらった人もいた。この時のことは、今でも忘れられないと、泰彦は言う。
 2003年、電力依存から脱却を図るため、従来の事業に加え、竣工検査・耐電圧試験・電気トラブル対応などを行う高圧保守点検の部門を新たにスタートさせた。これは小泉政権時代の規制緩和の一つで鈴鹿テクトも新規事業者として参入することができた。
 現在では400ヶ所近くの顧客を持つまでになり、多くの電気主任技術者を抱え、日々電気の保安に努めている。

介護サービススタート~介護事業の難しさとやりがい

 2003年、泰彦は鈴鹿テクトの関係会社、有限会社テクトサービスを設立させ、デイサービスセンター「大家族」を鈴鹿市高岡町にスタートさせる。その3年後には、同敷地隣にデイサービスセンター「大家族Ⅱ」を増設。開設当初はほとんどいなかった利用者も現在では年間2万人を超えるほどになった。
 当時は電力の自由化が始まり、大規模送電工事も終わり、泰彦には次の一手を考えなければという思いがあった。たまたま協力会社の社長が名古屋で介護事業を2000年から開業していることを知り、施設を見せてもらうことになった。
「その時私もこの仕事を鈴鹿の地でやりたいという思いに駆られました。設計士、建築会社はもちろん、県の窓口、銀行、他業者等、相談し進めていき、約1年後オープンにこぎつけました」
 やっとオープンできたものの、スタート当時からアクシデントに見舞われる。こうした施設を開設するときは、オープン前に利用者の募集告知などをして利用者を確保しておくものだが、行政から『施設を建ててからの募集』と言い渡され、利用者を募集したのはオープン後。オープン初日の利用者はたった一人しかいないという事態に。
「利用者がほとんどいない施設では職員もみんなすることがなく、パンフレットをポスティングしたり、営業に走ったり…。とはいえケアマネージャーもいなかったため、職員たちは介護の仕事をするのではなく、営業の毎日だったのを覚えています」
 利用者は週に2人。そんな日々が続いた。この先やっていけるか不安な日々が数ヶ月続いた。しかし、そんな泰彦を支えた力強いパートナーの存在があった。
「職員は全員資格取得者だけど、自分自身は資格も施設経営の経験もありませんでしたが、妻が良きパートナーとして大いに助けてくれました。現在も取締役として妻の存在感は大きいですね」
 施設はオープンから3年間は赤字続きの経営だったが、泰彦は諦めなかった。
その甲斐あって開業から10年余、利用者も増え2013年には、サービス付高齢者向け住宅メディカルステイ「鈴鹿の華」と併設のデイサービスセンター「はなやか」がオープン。現在4つの施設を運営している。
 お婆ちゃんっ子でお年寄り大好き。そんな泰彦には現在109歳になる祖母がいる。
「明治37年生まれですよ。すごいでしょ?でも背筋もシャンと伸びていてピンピンしてる。本当に元気なんです」
 毎年誕生日には一緒に食事行き、長寿を祝うという。「お婆ちゃんを見ていると、ご年配者が安心して暮らしていけるように我々も少しでもお役に立ちたいと思いますね」
 安心・快適な介護施設を提唱する一方で、抱える問題がある。それは職員の確保だ。
「介護事業の業界の仕事も24時間体制で忙しい割に賃金が低く、需要の多さの割になり手が少ない。送電工事の職人と同じです。スタッフが少ないと、十分なサービスが提供できない。そうなると入居者確保が難しくなる。やはり現場の人間の確保が一番大事なんです」

株式会社鈴鹿テクト

三重県鈴鹿市矢橋3-4-12
TEL 059-382-3241
WebSite https://www.suzukatect.com/

昭和39年 資本金100万円で株式会社設立
昭和42年 中部電力株式会社津支店 送電・通信 取引開始
昭和53年 関西電力株式会社東海支社 取引開始
平成元年 前川泰彦、社長就任
平成6年 株式会社鈴鹿テクトに社名変更
平成15年 デイサービスセンター「大家族」営業開始
平成25年 「鈴鹿の華」「はなやか」オープン

 

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