三重の企業人たち

対泉閣社長/ 玉置治郎

玉置治郎

― 対泉閣誕生までの歴史について教えてくだい。

玉置 昭和初期、現在の近畿日本鉄道の前進である参宮急行電鉄が保養所とした施設を、当時、瀧川村長を務めていた祖父(二代目・玉置治平)が観光振興のために取得し、運営に乗り出したのがはじまりです。赤目四十八滝の「大日滝」の真正面に位置していたことから、「対泉閣」と名付けられました。

― 地元のみなさんの当時のご職業というと?

玉置 炭焼き農家だったと思います。

― それにしても、すばらしい環境ですね。

玉置 「赤目四十八滝」は、かつては修験道の修行場でした。観光地ではなかったのです。ただ、村人たちは奥に延々と滝が続いていることを知っていて、曾爺さん(初代・玉置熊吉)が先導して道をつけていったそうです。

― 最奥の滝までどれほどの距離ですか?

玉置 およそ3.5km、往復3時間です。

― 新緑の頃、紅葉の季節と自然が好きな人にはたまりませんね。そして、水がとてもきれい。知人に自然環境系NPO法人の主宰者がいますが、彼などさかんに赤目の滝の水の美しさを言い立てます。

玉置 赤目の滝は「日本の滝百選」「平成の名水百選」「森林浴の森百選」に選ばれた名勝地です。生活廃水が流れていませんから、これだけの透明度を誇っているわけです。

― 自然の美しさはもちろん、食事や湯(温泉)を楽しみにここを訪れる人も多いと聞きます。

玉置 旧保養地を父(三代目・玉置典治)が旅館へ業態を変えていきました。それは祖父(治平)の夢でもありました。当地はたいへん寒冷で、冬場は客足が途絶えました。改善を図るため、「温泉」を思いつき、昭和63年に4ヶ月程かけて温泉源を掘り当てました。地質が均質だったため、掘りやすかったそうです。当地では唯一源泉を持ち、良質なアルカリ単純温泉を提供しています。

― 湯の効能はいかがですか?

玉置 日本療養温泉規定にも認められた良質の温泉で、神経痛や疲労回復のほか、美肌効果の高い泉質が自慢です。

― 赤目と言えば、お酒も見すごせません。こちらの料理の特長は何でしょう?

玉置 当地は伊賀酒、伊賀牛、伊賀米で知られています。私どもでは、伊賀米コシヒカリなら特Aランク(※日本穀物検定協会評価ランク)と評判が高いです。肉は伊賀牛、野菜は地元のものを中心にお出ししています。

― 「伊賀」とは言え、ここ名張産が美味しいと聞きますが。

玉置 すべては水なのです。川上に位置しますから、名張の方が水質が良いわけです。当館の酒は『瀧自慢』ですが、これなど伏流水を使用したものです。

― 最上流のピュアな水を使用するのですね。さて、今日まで経営してこられて、お客さんの反響はいかがですか?長い創業の歴史の中で、客層の変化などについてお聞かせください。

玉置 電波媒体による宣伝が効果を上げました。地上波放送の時代、放送圏が関西地方であったため、近鉄沿線の大阪、奈良からのお客さんが中心でした。リピーターも同様です。地デジに変わった今では、中部地方にまで集客範囲が広がりました。客数としては今は半々です。

― 赤目は水と紅葉がすばらしいという印象が定着しています。訪れてゆっくりしてもらうには最高の温泉ですね。まさに赤目の宿です。

玉置 ひと頃、団体客を多く受け入れましたが、「遊ぶところが少ない」と少し物足りなさを感じてみえました。一方、個人客は私どもの佇まいに満足されていたようです。今日、個人客が中心になりましたが、私どもの本来の良さ(落ち着き)を感じていただいているものと信じています。

― また、名張と言えば、一般に紅葉をイメージしがちですが、市の観光協会によると新緑の頃の方が良いそうですね。玉置社長はどうお思いですか?

玉置 私も同感です。この山頂がちょうど奈良県との県境になるわけですが、昨年登山ルートが開通しました。季節になるとヤマツツジがとてもきれいです。ただし、車ではアクセスできません。滝の奥の急峻な行者道を歩いて越えて行きます。往復4時間の距離です。残念ながら、そのルートからは紅葉は望めません。紅葉が見事なのは山の反対側なのです。

― 注目度が高まる赤目ですが、外国人の反響はいかがですか?

玉置 ひと頃、中国人の団体客が押しかけましたが、ほとぼりが冷め、今は個人客が大半です。月平均で50~60人でしょうか。香港、台湾に加え、最近は欧米人が増えつつあります。私たちが見慣れたもの、知りつくした物事に関心を示されるようで、当たり前すぎて見逃していた価値にあらためて気付かされる思いです。

― そうですね。ところで、社長は何代目になりますか?

玉置 私で3代目です。後継者もおります。名張の観光は赤目、その赤目の観光をサポートするのは旅館であるわけです。その意味でも辞めるわけにはまいりません(笑)。

― 現状改革についてのお考えは?

玉置 生活環境の変遷にあわせ、これまでもハード的なものは整えてきました。ただ、人が旅に求めるものは昔も今も変わりません。そのためには、自ら来て、体験し、発見していただくのが一番。旅の本来だと思うのです。そうすることで、人生の一ページが刻まれもしましょう。ぜひ、そうあってほしいと願っています。

― 目を洗うような自然美、美味しい料理、酒、温泉…。ここでしか堪能できない地味を堪能してもらいたいですね。

玉置 こちらの主張を押し付けることは好みません。お客さんの方で感じてもらい、それをサポートしていくのが私たちの務めだと考えています。

― つまり、喜んでもらうところを伸ばして行くということでしょうか?

玉置 そのとおりです。

― では、経営理念を教えて下さい?

玉置 自分の仕事は「お客さまの思い出づくりのお手伝い」だと思っています。そのために、お客様を快適にするための気配りを常に心がけています。あとは、繰り返しになりますが、名張の観光の目玉は赤目、その赤目の観光をサポートする旅館を大切に守っていくこと。それがわたしの使命だと思っています。

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