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伊勢志摩サミットで選ばれた日本酒はこうして作られた / 株式会社大田酒造

「半蔵」、世界にデビュー

伊勢志摩サミットの初日ワーキングディナーで乾杯酒に「半蔵」が選ばれたことは、私たち三重県民にとってうれしいニュースでした。反響はありましたか?

大田 メディアでも大きく取り上げられ、お蔭様で大反響でした。直後は注文が殺到して出荷の目途が立たなくなりました。

全国区へ衝撃的なデビューになりましたね。では、酒造りに対する考え方についてお尋ねします。

大田 20年前までは普通酒を中心に造ってきました。昔でいう1級酒、2級酒です。普通酒がよく呑まれていた頃、大手メーカーが販売に力を入れはじめると私どもの酒は徐々に立ち行かなくなっていきました。そこで、蔵の特長を出した酒造りを行うようになりました。そんな頃、父が亡くなり、徐々に取引先も失って…。コンサルタントに相談したり、百貨店の伝手を頼ったりしながら、少しずつ回復して行きました。

失礼ながら、それほど大きな酒蔵でもないようですが。

大田 はい。ですから、私どもが世界や全国から注目されて、驚いているわけです。殺到する注文にもすぐに増産というわけにはいきません(笑)。

他所の蔵元と決定的に違うところはどこでしょう?

大田 三重の米にこだわっています。「山田錦」や「うこん錦」に代わって、三重県が開発した酒米「神の穂」を使うようになりました。農家さんも徐々に慣れてこられたようです。一年目に「神の穂精米歩合50%の純米大吟醸」を造って評判を得ました。今でこそ何軒かの蔵元が行っていますが、うちでは最初から神の穂を50%精白でもう10年間続けています。

「神の穂」にして良かったですか?

大田 はい。東京、大阪で売りやすい銘柄です。三重といえば、伊勢神宮の話で盛り上がり、酒米「神の穂」の名も受けが良いです。どこへ行ってもお勧めでき、今では海外にも評判が広がって注文が増えています。「三重セレクション」や「伊賀ブランド IGAMONO」にも登録されていますし、「神の穂」で一気に花開いた感じです。

経営をしていく上で、重視されていることは何ですか?

大田 大切なのはご縁だと思っています。今でこそ海外向けが売上の一割を占めるようになりましたが、はじめはアメリカの店も1軒のみ。その後、商社とご縁がつながり香港へ広がるようになりました。

伊勢志摩サミットで使われたお酒、という実績があれば、すぐに契約に結びつくのではないでしょうか?

大田 いろいろお問い合わせをいただきますが、お酒が足りない状態が続いています。なにより、県内で知名度が上がったことがうれしいですね。お客さんから、「近所の酒屋さんで見たよ」なんて聞くこともしばしば。海外も大切ですが、地元の消費に貢献したい気持ちがありますから、そうやって地元で知名度が上がるのは本当にうれしいです。

これからどう展開して行こうとお考えですか?

大田 11月から3月まで、岩手から杜氏に来てもらっています。今はその期間だけしか酒造りができていません。ただ、息子が修業を終えて戻ってきたので10月~4月いっぱい酒造りができます。まずは安定して供給できるだけの体制を整え、それができた段階で、息子がつくりたい酒を造らせるつもりです。販売量を確保することが当面の課題です。

では有輝さんにお聞きします。「作」醸造元・清水清三郎商店内山杜氏に酒造りを学んだ感想は?

有輝 1年9ヶ月、しっかり身体で覚えてきました。

大田 内山杜氏はすばらしい杜氏ですよ。酒造りに影響する温度の管理が上手くて、気候が変動しても安定的に酒を提供することができる杜氏です。

有輝 利き酒の能力も非常に高い人でしたね。

太田さん、7代目になにを期待しますか?

大田 出かけた先々で名前を覚えてもらうことが大切だと思っています。酒の品質はその人が判断するでしょう。それでファンになってくれるのなら言うことはありません。

サミット後、「半蔵」はすっかりブランドになりました。ですから、名前も十分に浸透伝していると思いますが。

大田 確かに以前に比べて営業に出ることは減りました。その分、事務所内で注文対応に追われています(笑)。商品を知ってもらうためにかけていた労力や時間、お金を、これからは設備投資や商品開発に活かしたいです。

自分の酒蔵のブランドで売れるというのは、ありがたいことですね。

大田 ほんと、そうですね。

有輝さん、ご両親がここまで育てたブランドを落とすわけにはいきませんね(笑)。これから、どのような展開をしていこうとお考えですか?

有輝 呑めるようになってから、家業の酒造りを意識しはじめました。杜氏からいろいろと教わり、自分でやれるようになったら、種類も増やしていきたいです。

大田 海外での受けも良く、間違いなく日本酒ブームが来ています。

そうですね。韓国でもアメリカでもヨーロッパでも、日本酒は高級です。フランス料理に合うとも聞きます。でもかつて、日本酒が焼酎やビールに圧された時代がありましたよね。大変ではなかったですか?

大田 焼酎ブームの時、売上が激減しました。危機感がありました。数年間、毎月のように蔵元の閉鎖が続き、このままでは売れ残りが生じると判断して、仕込みの量をタンク7本にまで減らしました。

どうやって切り抜けたのですか?

大田 私たちの代で蔵をしめるわけにはまいりません。たくさんの方との出会いがあり少しずつ回復しました。苦しかった当時を思うと支えていただいた方々に感謝です。2種類からはじめた「半蔵」でしたが、時代時代で異なる嗜好に合わせ、味覚や価格帯を考えながら年々開発を続けていきました。今では20種類を超えます。

20種類もあるんですか。似た味のものも出てくるのではないですかような気がしますが。

大田 はい、確かに味の似ているものもあったので、徐々に整理していきました。やはり、売れ行きの良い方を充実させていかないと。酒造りは杜氏との二人三脚で行います。アドバイスを受けながら造ったこともありました。「半蔵」を営業できたのも、その杜氏のお蔭です。栄誉な賞も頂きましたし、海外からも注文が入り出しました。

有輝さん、杜氏としての達成はいつ頃ですか?

有輝 達成はまだまだ先のことですが、今の杜氏と交替して品質が落ちないようであれば、まずはひと安心。それから後、味の改善と新商品の開発を考えていくつもりです。現在23歳ですが、30歳までには金賞を取りたいですね。それで自信をつけたいとも思います。今の杜氏と交替した時からが勝負です。

品評会には今後も出席されますか?

有輝 入賞した酒の味、落選した酒の味を学べるし、それらと比較して自分の酒はどうなのかということも分かりますから、勉強のためにも参加を続けていきます。結果は問わず、他酒と比較できる機会としてとらえたいと思います。

大田 変わらず提供できる「半蔵」と、さらなる高みを目指して開発中の未完成品。この両方があるから、お客様も気にかけてくださるのだと思っています。

智洋さんにお聞きします。伊勢志摩サミットのディナーで乾杯酒に選ばれたことについての、感想などをお聞かせください。

智洋 ワンランク上げていただいたわけですから、がんばらないと。伊勢でサミットの乾杯酒に選ばれるなんて、本当に名誉ですし、ありがたいことです。感謝しています。

知事が言う「サミットの成果」とは、酒1年分が1日で売れたことを意味します。これからは、豊富な伊賀の物産を販売して行く手法を考えたいですね。

智洋 はいそうですね。「半蔵」と言えば忍者。10年前、背中に「半蔵」の意匠の入った忍者の衣裳を着て売っていたんですよ。海外はもちろん行く先々の多くの人の記憶に留めていただけたようです。現在伊賀市は「忍者」を仕掛けていますが、私どもも変わらず「忍者」で押して行けそうです。

今後も、サミットで得た評価に甘んじることなく、もっともっと素晴らしいお酒を造って頂けることを期待しています。

大田 ありがとうございます。頑張ります。

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