― 学長就任おめでとうございます。まずは、抱負をお聞かせください。
学長 宗村前学長がお体を悪くされ、今年の卒業式では私が学長代理を仰せつかっておりました。4月20日に永眠されると、学園の規定に基づき理事長の任命を受け、9月1日付で学長を拝命いたしました。
本学は四日市市と暁学園との公私協力方式により開学しました。この色彩をより強く打ち出したい考えから、2年前、文部科学省の「知の拠点」整備事業(COC事業)に応募し採択されました。また、昨年は経済産業省の「おもてなし」のプログラム開発に採択されました。これら2つの国の補助事業を受ける形で地域貢献大学としての色彩を強めて行ったのです。公私協力大学の理念に立ち返って学部構成を考え直したわけです。
そうすると、経済学部の経済理論や経済学史、日本経済論といった学科はいくら突き詰めたところで必ずしも地域貢献に役立つものでないわけです。むしろ、経営部門を生かしながら、それを地域経営という形で総合政策学部に取り込み、環境情報学部との2学部体制でいく方がよいのではとの結論に至ったのです。このことはけっして学部の規模を縮小するものではありません。地方志向を重視してカリキュラムも変えました。来年4月から本格的に1年生を受け入れる計画です。
― 四日市大学と言えば地域連携、地域貢献を積極的に行ってきたという印象がありますが、今後についてはいかがでしょう。
学長 これから真価を発揮しなければならないと考えています。北勢地域においてもすでに人口減少、急激な高齢化が進んでいます。2015年国勢調査では、世帯数はおそらく最低になるだろうとの結果が出ました。2005年国勢調査の時から人口減少傾向が認められます。そして、世帯数の減少にともない、空き家の発生が問題になるでしょう。桑名市の推計では2040年で5千戸の空き家の発生が見込まれています。旧市街地ばかりではありません。新興住宅地でも増えてくるでしょう。また、若者の人口流出が問題です。雇用の機会があっても、若いうちに都市部へ出てしまう。しかし、この現象を大学で吸収しないといけません。私どもの使命です。せっかくだったら、うちの大学で4年間地域について学んだ上で卒業後、県内で就職する。生涯三重県内で暮らせるようなカリキュラムにしていくことが、今回の改革の主眼なのです。したがって、大学ではこれまでのように座学中心ではなく、教師と学生がいっしょに地域に出かけ、まさに地域が先生になるようなプログラムを展開していきます。ですから、地域のみなさんには学生の教育の場を提供していただくとともに、先生になっていただきたいと思います。核家族が進んでいるため、学生は親世代以外の人と話す機会がありません。しかし、見ず知らずの大人たちとコミュニケーションを図っていくことはとても大事なことなのです。こうして学生を地域で育てようとするために、「地域を教室に、地域から学ぶ」を実践する実地教育を中心に据えたカリキュラム改革を進めると同時に、学生の成長を客観的に評価し応援する「成長スケール」を開発し導入しています。高校から大学に期待すること、企業側から大学に期待すること双方のニーズを調整するのが大学の役割ですが、これは、学生たちが自ら設定する目標に対しその成長度合を確認させることが目的です。成果は「就職」となって明らかになることでしょう。
― 学力があっても地域社会に適合できないと困りますね。
学長 合意形成能力、コミュニケーション能力も歴とした学力です。相手の話に耳傾けつつ、話の道筋を立てて意見を言い、対話を通して合意形成に向かう。こういう能力は学校ばかりでなく、地域で磨かれることも多いはずです。
― 大学は実社会への適合能力を育てる訓練の場ですね。
学長 そのとおりです。大学に4年間ある意味ははじめの3年間で様々なことを経験し、最後の1年で総括するということ。その3年間にこの教育プログラムを配置したわけです。
― 企業側は社員教育に費用と時間を割かなくてよいわけで、たいへん好都合ですものね。
学長 大学側に学生の即戦力養成を求める企業も多いです。つまり、学生のうちに身に付けておいてほしいと。結局、企業も社会全体も余裕がないわけです。さて、2005年で人口は頭打ちです。日本は人口が増える前提で社会のシステムを創ってきました。人口減少局面に入った今、社会のシステムそのものを見直す必要があるのではないでしょうか。少しでも彼、彼女たちに役立つものであるために。それが我々世代の使命だと思うのです。
― 企業側も自社で働いてほしいためにはどのように魅力をアピールしていくか考えるべきだと思います。将来性ある地域社会を創るためにも。
学長 社会全体で学生を育てたいという希望があります。企業はCSRを展開して発信すれば人材確保につながります。大学側もそれを支援することで、社会全体として学生を育てることになります。そうした進取の気性のある企業を再認識し評価する文化が育たないといけません。
行政任せにするのではなく、それぞれの地域の課題を自らの手法で解決していく術を学生たちに現地で学ばせたいのです。県南部の集落消滅の危機であるとか、とくに都市部に顕著な高齢者問題を地域で見守る地域包括支援システムであるとか、学生たちに自分の眼で確かめさせたいのです。
― 留学生と地域との関わりについてお聞きします。
学長 彼らは日本で就職したいと思っています。ただ、現実は厳しいものがあります。通訳など、時勢に合わせて海外留学生を雇うことはあっても、長期的な視野で育てていく企業はまだ多くないようです。明らかに労働力が不足しているのですが、彼らを使い慣れていないなというのが実感です。
― 伊勢志摩サミット後、その効果を発揮できる場(機会)の創造の問題について。大学がその場になり得るかどうか、お考えをお聞かせください。
学長 「地域を教室に」を標榜していますので、例えば三重テラスの県内版ができた時にはそのソフトの部分に留学生たちを関わらせることはできます。観光はこれからの一大産業です。そのための訓練の場として活用したい。積極的に協力していきたいと思います。COC事業では「北勢DMO」がテーマともなりますので、教育プログラムの開発を進めなければなりません。
― 「ふるさと納税」の商品の選定をされましたね。
学長 いいなと思ったのは民間がやっていることです。自治体がすべてやってしまえば、過剰な返礼品になったりするわけです。だから、民の力が必要なのです。本当は認定についても民で行いたい。語弊はありますが、市を利用するというスタンスは必要だと思います。
― さて、四日市市長選挙が11月27日に行われます。現職が辞められ、新人3名が立候補されます。立候補予定者の公開討論会を四日市大学とNPOクロスポイントの共催で10月30日午後、四日市大学学園祭会場で行います。選挙権を持つ学生たちに、いかに地元の首長の選挙に関心を持ってもらうか、どのような広報活動をされていますか?
学長 幸い、立候補者は学生たちと年齢が近い。立候補者がこの街をどのようにしたいと考えているのか、しっかり政策を聞いた上で自分の将来を託す市長を選んでほしいと思います。
― 学校側としても、学生たちに選挙に興味をもってもらえる討論会にする義務がありますね。新市長に期待するところは何でしょう?
学長 四日市は行政と市民、相互に依存体質が強いことが特徴です。望ましいことではありません。むしろ協働してやることを今のうちから始めた方がよいと思います。このことは四日市に育った若い世代に再び四日市に戻ってきてもらうためにも必要と考えます。若い世代の自立のためにも行政改革を目指すべきです。
岩崎 恭典氏プロフィール
昭和31年 京都府宇治市生まれ
昭和55年 早稲田大学政治経済学部卒
昭和58年 早稲田大学大学院政治学研究科自治行政専修博士課程前期修了
自治省外郭の研究所を経て、中央学院大学法学部で地方自治論/公務員制度論を講じる
平成13年 四日市大学総合政策学部教授
平成25年 四日市大学副学長
平成28年9月 四日市大学学長
・総務省「市町村合併アドバイザー」
・総務省「地域経営の達人」
賞罰
我孫子市自治功労褒章
米原市自治功労賞