株式会社 試作サポーター四日市

「試作サポーター四日市」は”企業群”という新しい形態の会社だ。四日市の製造業16社が出資。共同で製品の開発や販売を行っている。キャッチフレーズは”小さくても束になれば、世界と戦える”。設立から今後の展望までを、社長の仲井氏に聞いてみた。

三重県初の企業グループ試作サポーター四日市設立

 試作サポーター四日市設立のきっかけとなったのは、平成21年5月に三重県が四日市機械器具工協同業組合青年部にもちかけた「京都試作ネット」の視察だった。
京都試作ネットとは、京都府南部に所在する機械金属関連の中小企業10社(現在は25社)が立ち上げた、試作品を共同受注するためのサイト。サイトを見た企業が見積もりを発注すると、その情報は加盟各社に送られ、その中から受注に最適な会社が見積もりを返すというシステム。スピードが売りで、見積り依頼を受けてから2時間後には見積りを提出していた。
 視察後、三重県から四日市機械器具工業協同組合青年部に「企業グループを作ってみないか?」という提案があった。当時、全国に「京都試作ネット」のような企業グループができはじめていたからだ。しかし、その時点ではどの企業も懐疑的だった。「みんなでやってうまく行くの?」といった空気が大勢を占めていた。
 「しかし、リーマンショック以降多くの企業が、何か新しい事をやらないといけないと考えていた時期で、技術力や志を持った企業同士が連携し合えば、創造的な事が出来るかも?という気持ちもあったのは確かでした」。
 試しに「設立委員会」を作ってみることになり、かなりの頻度でミーティングを繰り返した。
 「複数の企業が新たな活動をすることは、簡単ではないと思う反面、技術や考え方が幅広い分、新たな可能性もありました。今まで固定観念でストップを掛けてしまう部分があったことに気が付いたんです」。 その年の11月、様々な議論を重ねた結果、企業グループを設立することが正式決定した。メンバーは14社。名称は「試作サポーター四日市」と決まった。設立後すぐ、三重県が主催するリーディング産業展に出展した。「展示会をやったことがある企業って半分ぐらいしかなかったんですよ。僕も初めてでした。展示会をやることになってすごく勉強になりました」。
 スタートは順調だった。すぐにたくさんの依頼が来た。しかしその依頼のほとんどが「今より安い発注先を探している」というものばかりだった。
 「仕事のステップアップのために作ったのに、これはちょっと違うんじゃないか?と思いはじめたんです」。
 次の手を考えなくてはいけない。メンバーたちはそう思い、状況を打開するため、お互いの会社を見直すことを始め、メンバー企業の工場見学を行った。共同受注するためには、他社のことをもっと知っておく必要があった。
 「ひとつのグループになったんですから、僕が他の会社の営業マンになる可能性もあるし、逆ももちろんある。それぞれの会社がひとつの部署のような位置づけになるんですからね」。
 他の会社のことはみな知っているつもりだった。だが実際に回ってみると、見方が変わった。「この会社のここ凄いなぁ」とあらためて理解することができたのだ。

IH応用機器の開発にトライ

 そんな時だった。伊藤工機株式会社の伊藤社長から「IH(電磁誘導加熱)をやってみないか?」という提案があった。伊藤工機は以前からIHを手掛けていてノウハウがあった。「生産設備としてのIH加熱応用機器を手掛けている会社は余り多くない。何でも教えるからやってみないか?」。
 試作サポーター四日市の加盟企業がIHをやることは、伊藤工機にとってはライバルが増えることになる。しかし伊藤社長は気にしなかった。彼は言った。
 「省エネや差別化を図るツールとして、IH機器に対するユーザーの関心は高い。IH機器の導入が進み、その価値が認知されればより需要も増え、まわり廻って自社のメリットにもつながる」。
 さっそく「IHの勉強会」が発足した。「IHの最大のメリットは加熱効率の良さです。例えばガス直火加熱では30%程度、シーズヒーターでは50%程度の熱効率ですが、IH加熱では90%以上となり、クリーンで安全な、かつトータルコストパフォーマンスに優れた加熱方式と言えます。今後の用途の展開が拡がる可能性を持った技術だと思いました」。
 そして次の展示会。試作サポーター四日市はIHの技術を出展した。すると、大手企業5社から問い合わせがきた。そのうち3社とは実際に契約に至った。仲井改めて「IHはビジネスになる」と実感した。

16社が出資し、株式会社へ

 しかし受注する際、不都合があった。試作サポーター四日市は法人ではないので、受注は各社が個別に行わなければならない。「これでは具合が悪い」ということで、翌22年1月、「試作サポーター四日市」は株式会社となった。法人化の時点で2社増えて16社になった。各社が資本金を50万円づつ出資し、資本金は800万円。社長には代表の仲井がそのまま就任した。
 株式会社試作サポーター四日市はその後もIHの応用機器の開発を続けた。IHの専門家を呼んで勉強会も開いた。仲井は会合などがあると「四日市にIHバレーを作る」と言い続けた。
 「IHをやっている会社ってそれほど多くはないんです。でも僕らはグループ16社全部がIHをやってるんですから、世界で一番IHを手掛ける企業が多い街になります。だから僕の言ってることもまんざら嘘じゃないんですよ(笑)」。
 そのうち、大手企業も協力を申し出るところが現れた。大きなビジネスではないが、コンスタントに開発の仕事を受注できるようになった。

アメリカ進出を視野に、現地調査へ出発

 翌23年、試作サポーター四日市は海外展開を計画した。
 「我々は『製品』ではなく『技術開発』を海外に売ろうと考えたんです」。
 現地調査のためメンバーがアメリカに渡り、精力的に企業を回った。反応は上々だった。調査が目的の渡米だったが、すぐにでもビジネスになりそうな感触が得られた。さらに、この渡米がきっかけで、某大手企業が試作サポーター四日市を業者登録してくれた。まだ受注には至ってないが、今後の展開が十分期待できる結果だった。
 「地方の小さなグループ企業がいきなりアメリカへ行って、大手企業に業者登録してもらえるなんて驚きでした。名前を言うこともできないような大企業なんですよ。『何事も本気でやったら何か返ってくる』ってことを身を持って体験しました。他ができない技術を持っていれば、会社の大小にかかわらず認めてもらえるんですよね」。

今後の目標は、グループ各社の製品を売ること

 仲井は今年の目標を、メンバー各社にスポットを当てた活動と他地域企業群連携をして行きたいと言う。
「試作サポーター四日市としての開発は続けていきますし、新しい事にもどんどんチャレンジして行きたい。それと同時に、メンバー各社の技術を色んなところに伝えていきたいとも思っています。その次のステップは、各社の製品を売ることです。試作サポーター四日市の製品も売るけど、みんなの会社の製品も売る。そんなスタンスでやって行きたい。そうやってメンバーたちに『試作サポーターに入っていてラッキーだった』と思ってもらえるような、そんな仕組みを作ることができたらいいなと思っています。試作サポーター四日市の活動を通じ、全国各地の仲間ができました。その各地の仲間と他地域企業群連携「Monozukulink.net」を平成23年9月設立しました。現在13都道府県16団体で活動をしています。日本には、素晴らしい企業の技術と熱い想いが沢山あります。『小さくても束になれば世界と戦える』と信じています。モノづくりを通じて、日本の明るい未来を創造していくため、一歩一歩進んでいきたいと思います」。

株式会社 試作サポーター四日市

〒510-0075 四日市市安島1丁目3-18 四日市機械器具工業(協)内
TEL059-335-3553

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