伝七邸「100年伝統継承倶楽部」オープン
-伝七邸から四日市の新しい100年がはじまる-

明日の四日市を夢見て、集い、語り合った場所。開明へのこころざしも高く、近代化に向け、ひたむきに突き進んだ一時代。遥かなる時の揺曳(ようえい)の中に見え隠れする熱い息吹。そのまま遺産として次世代へ送る。

 気骨ある明治の偉人たちの志を受け継ぎ、これからの社会のあり方を考える伝七邸「100年伝統継承倶楽部」の開館記念式典が9月18日、〝四日市近代化の父〟伊藤伝七の本宅であった料亭「浜松茂」で盛大に開催された。

伝七邸「100年伝統伝承倶楽部」について/九鬼紋七代表幹事

プロジェクト参加まで

 人生において、多くの人との出会いがあり、様々なメッセージを受け取ってきました。その中で特に響いたのは、「私はきらきらドキドキで可能性に満ちた場をご縁のある方々と共に創造し、そして、夢中になります」というものでした。この言葉どおり、私は出会いの場をつくることが好きです。一方通行になりがちな講演会などとは違って、参加者同士いろんな意見を出し合って喧々諤々する場が好きです。コーチングやワークショップを通じて、学び、成長する場が好きです。このような場で、四日市の魅力と将来、強みを語る機会があり、このとき浜松茂さんが閉店されることを知ったのです。私もちょうど還暦を過ぎた頃で、なにかとこれまでの人生を振り返ることが多く、九鬼家や九鬼水軍とともに自身のルーツに関わる浜松茂についても思いを馳せたのです。
 この建物は料亭であり、伊藤伝七氏の本宅でありました。氏は明治以降の近代化にあわせ、四日市港を中心に商工業の発展を牽引した偉大なる経営者です。この屋敷は昭和20年6月の大空襲に耐えて、残りました。一方、市内にあった九鬼家の家屋は全焼しています。
 時代的には、伊藤伝七10、11代目と九鬼紋七7~9代目が重なります。当代2人が四日市に興した会社が今も飛躍発展しています。つまり、2人はこの館でまちの戦後復興を考え、将来のまちづくりの構想を練ったわけです。ここはそのような場所なのです。渋沢栄一という方をご存知かと思います。この人の援助を得て、伊藤伝七氏は三重紡績会社を発足させました。ところが事業が上首尾に進まないとき、さらに援助を得て、大阪紡績との合併を進言されました。そして、世界に羽ばたこうと東洋紡績㈱を設立し、初代社長に就任します。東洋進出を視野に入れた会社が四日市に誕生したのでした。
 私が若い頃から親しんでいる日本の思想家に中村天風(てんぷう)氏がいます。こんな教えがあります。「…私は今、人の世のために何事かを創造せんと欲する心に燃えている。そしてかくのごとくに心を燃やしていれば、いつかは、先祖の霊は私に何をなすべきかを教えたもうにきまっている」。この言葉が絶えず頭の中を行き来していました。この言葉に勇気を得て、一歩二歩三歩と踏み出すと、不思議なことに、いろんな才能が集まってきました。ちょうど磁石が鉄を吸いつけるように、この館を中心にして縁が集まり出したのです。今日のこの日を迎えることができたのも、そんな仲間と歩みを共にしてきた結果です。

「3つの場」で運営

 この建物に3つの大きな役割を持たせたいと考えています。一つ目は「教育の場」。中学生以上大人までいっしょになって授業ができないか。限られた交友関係にある中学生が世代を超えて人生の先輩たちとの関わりができるなら、何か変わるのではないか。他方、大人も後輩たちに社会のこと、自分たちの経験などを伝えることができるのではないか。二つ目は「食文化体験の場」。和食やお茶会を楽しめ、コミュニケーションの場づくりにできればと思います。最後、三つ目は「情報発信の場」。ここでの活動を記録し、発信して行きます。視聴した人が自身の問題に訴えかけることが最終目標です。ここから、活気あふれる四日市に変えていきます

伝七邸プロジェクト/プロジェクトプランナー・今井まゆみ氏

 時代の流れの中で求められる歴史的建造物の保存については、その歴史的価値とあわせて、人々の志向を生かした新たな価値を創造しながら取り組む必要があります。100年伝統継承倶楽部が取り組むには、変らない有形無形の価値(建築物、文化)の保全と未来を語るための場の創造であり、これらを推進するための「文化財保全事業」と教育に関わる「文化事業」、これらの内容を次世代に向けて発信する「映像撮影・アーカイブ事業」です。四日市の新しい潮流を目指します。
 第一弾となる「伝七邸プロジェクト」では、国登録有形文化財である建造物を活かし、思い入れのある方々を中心に新たな利用価値を見出していきます。
 では、このプロジェクトが四日市にどのような波及効果を生むでしょうか。2018年、四日市港に大型客船の寄港がはじまります。これは、四日市活性化の大きなチャンスです。乗換だけにさせない工夫が必要と考えます。滞在する9時間を、四日市を活性化させるための何かに使わなければなりません。例えば、伝七邸に迎賓館的機能を担わせ、館内で和食や日本酒、お茶、和の空間を楽しむ提案をしてもよいし、四郷や水沢、椿大社といった近隣の観光資源をセットで提供してもよいでしょう。あるいは、四日市公害と環境改善の歩みを学ぶESDのコンテンツを使ったツアーを試みてもいいかもしれません。また、伝七邸周辺には潮吹き防波堤が残っていますから、これら四日市の港の歴史を知っていただくために周辺一体を観光整備するプランも考えられます。

来賓祝辞

森智広四日市市長からのメッセージ

 工業のまち・四日市の基礎を築いたのが伊藤伝七氏でした。私どもが四日市を産業のまちとしてさらに発展させて行くとき、新しい100年の第一歩がここ伝七邸からはじまることは象徴的であります。四日市市はいまイベント続きで、全国から注目されています。このチャンスをしっかり生かして、まちづくりを推進させる考えです。

葛西文雄四日市市教育長

 平成20年、伊藤伝七邸の玄関棟とさつき棟が登録有形文化財の指定を受けました。この大切な建築文化財が次の100年に引き継がれて行くこととなり、たいへん有難く思います。この建物を拠点として多様な文化事業、文化財の保護・活用事業に尽力いただけますことはたいへん心強い思いが致します。これからの活動を想像しますと、胸が高鳴ってまいります。

芳野正英三重県議会議員

 伊藤家、九鬼家に代表される素封家が四日市を盛り上げてきました。伊藤家が住まいとされたこの建築を活用した経済の発展を期待します。

佐久間裕之三重県中小企業中央連合会会長

 浜松茂さんが店を閉じられることを聞き知って、胸がつぶれる思いでした。しかし、新たに「100年伝統継承倶楽部」の名で出発されるとのこと、たいへん嬉しく思います。少子高齢化が進む社会にあって、人材をいかに育てていくかが課題となります。この意味で、このたびの決心を嬉しく思います。

吉川有美参議院議員

 四日市の発展につながる伝統継承の新しい流れを感じております。ESDを進めるために活用されるとのこと、すばらしい取り組みです。倶楽部の発展を祈念しております。

ごあいさつ/浜松茂3代目・吉田稔氏

 伊藤伝七氏とは祖父の時代からのお付き合いです。この建物を、伝統を守りつつ、コミュニティ広場として再生するという九鬼さんの強い意気込みに感服しました。これまでの経験を生かし、料理の面でサポートできればという思いです。「子ども時分から国際交流を重ね、料理だけではなく様々なシーンで世界に向けて発信していく」という新しいスタイルでの文化の継承です。九鬼さんの考えに相通じるものを感じました。料理スタッフとして、京都の老舗料理人を招きました。みなさまのご支援を得て、がんばる所存です。

哲学的景観を創る/専属庭師・梅野星歩氏

 明治の激動期、財界にあった人の心中を推し量りつつ、ときに瞑想し、気持ちを決断できるような哲学的で非日常の空間を創り出すことが使命と考えております。

記念講演/中曽根弘文参議院議員

 歴史を学び、未来を考えることは大切です。歴史や伝統を大事にすることはけっして保守的なのではありません。英国の政治思想家エドマンド・バークは「保守せんがために改革する」という言葉を残し、松尾芭蕉も「不易流行」ということを言いました。本質的なものは守りながら、新しいものを受け入れて行くという考え方です。特に若い人の教育に活用することはすばらしいことです。伝七邸は、料理のほか、花や茶など総合文化の場の提供もあるとのこと、人材育成も進むのではないでしょうか。

    ページのトップへ戻る