「忍者」で呼び込み、他の観光資源へ誘導する仕組みづくりを

「忍者」に着目したことがよかった。「忍者」をきっかけに、他の魅力的な観光資源に火がつけばいい。「芭蕉」「上野天神祭」、酒、伊賀米、伊賀牛、伝統的工芸品の伊賀くみひもと伊賀焼。トップが動いて社会を変える…。さて、観光客を振り向かせる次なる手だては。

伊賀にある観光資源を教えてください。

上野天神祭

 伊賀が世界に誇るものと言って思い浮かぶのが、「忍者」と「芭蕉」と「上野天神祭」。昨年12月1日、その上野天神祭がユネスコ無形文化遺産に登録された。400年の伝統ある一連の行列そのもの(=『上野天神祭のダンジリ行事』)が遺産登録の対象であり、「無形」とされるのはそのため。全国33の「山・鉾・屋台行事」の一つで、県内では「桑名石取祭の祭車行事」(桑名)、「鳥出神社の鯨船行事」(四日市)が含まれる。  上野天神祭は上野天神宮(菅原神社)の秋の祭礼で、二基の神輿の渡御とこれに供奉する百数十体の鬼行列、九基のだんじり(楼車)が絢爛豪華に町中を巡行する。鬼行列は悪疫退散と豊穣を祈願するものとされている。今回から日程を10月25日までの直近の金・土・日曜日に変更し、今年は10月20日~22日の3日間開催。多くの人出を見込んだが悪天候のため鬼行列・だんじりの巡行は中止となった。

忍者

 海外でも「NINJA」として広く知られ、人気沸騰中の「忍者」が『日本遺産』に認定された。認定は、伊賀・甲賀両市が持つ「〝リアルな忍者〟が感じられる里の文化と伝統を語るストーリー」に対して。伊賀や甲賀には戦国時代の城館や修練の場、鎮守の社などが点在し、忍者の里らしい風景が開けていて、まさに〝リアル〟!

 鈴木英敬三重県知事が会長を務める日本忍者協議会(※)は、今回の認定を機に全国に点在する忍者文化を活用し地域経済の活性化に役立てるとしているが、日本に数ある忍者の里を世界にアピールしているのは目下伊賀・甲賀だけ。「みんなが狼煙を上げると盛り上がるのですが…」と、オールジャパンでの取組みが期待される。

※「忍者」を国内外の観光客誘致や「クール・ジャパン」の発信に活用する。忍者の里として知られる自治体らが参加して全国的なネットワークを構築し、2月22日を「忍者の日」と決めたほか、「忍者ブランド」を確立。イベントなどを通じて地域経済の活性化に役立てる計画。

芭蕉

 「芭蕉」は、観光ではなく、顕彰の対象となる。処女集「貝おほひ」を上野天神宮に奉納して江戸に下ったことに因み、上野天神宮界隈をリニューアルして〝芭蕉横丁〟を整備する計画。天神宮から江戸方向つまり東に、生家や愛染院など縁ある施設が並び、これを生かし、さらに寺町を通って蓑虫庵へつなぐ周遊コースをつくる。

その他

 ほかにも、ここが生誕地である「観阿弥・世阿弥」、剣豪「荒木又右衛門」などの魅力的な観光資源が多い。また、物産では酒、伊賀米、伊賀牛。伝統的工芸品の「伊賀くみひも」と「伊賀焼」は全国約200ある伝統的工芸品の2つだ。特に「伊賀くみひも」はアニメ「君の名は。」でブレイク中。劇中に登場するキーホルダーやブレスレットをつくる体験教室が若い世代を中心に人気で、着物世代に限定されていた関心層の拡大にまさにアニメが貢献した形で、連日盛況。体験スペースを拡大して対応している。

交通アクセスも良く、豊富な観光資源を案内するルートも整備されつつあります。今以上の訪問客を期待するとき、来年1月2日から四日市港に寄港する大型客船を無視することはできません。6隻入港すると聞いていますが、到着後、観光振興につなげる方策は?

廣澤会長 そういう計画を立ててもらえば、伊賀忍者軍団「阿修羅」を呼んで忍者ショーを開幕したいところですね。いっそうの集客が期待できそうです。

独自のビッグ・プロジェクトは?

廣澤会長 まち全体を〝忍者むら〟にする計画があります。体験施設、食との関連づけなど2年がかりでやっていきます。本物の忍者を養成する学校建設も考えています。滝に打たれたり、山へ登ったり。つまり、修行の場ですよ。

忍者づくしのまちづくり…、面白そうですね。

廣澤会長 その第一歩として、「吹き矢道場」をはじめました。ほかに「手裏剣打ち道場」「行灯火消し道場」「九字暗記・パズル道場」などを実施しています。すべてチケット制で、こうした「忍者修行」と食べ歩きができるシステムです。経済活性化にもつながります。

高齢者もなんらかの形で関われば、収入になりますね。

廣澤会長 売上げが月に10万円程になれば、運営を任せようと思います。また、まち中にある露地や壁を利用して、〝どんでん返し〟などの忍者の仕掛けをつくろうとも思います。上野天神宮から西側を忍者ゾーン、東側を芭蕉ゾーンに分けたいですね。

そのアイデアに対して、地元住民の意見は?

廣澤会長 新たに開発するのではなく、馴染みの界隈に人材を投じてまちを変えていきたいのです。 ところで、外国人観光客は増えていますか?

稲垣事務局長 インバウンドの集客増に貢献しているのが、忍者体験ツアー「忍者パック」です。津市の美杉リゾート、伊賀上野観光協会、伊賀鉄道、名阪上野ドライブインがタイアップした旅行商品で、好調に推移しています。できるだけ県内で滞在し消費していただくよう考えています。そのためにも「忍者」で呼び込み、他の観光資源へ誘導するという仕組みづくりが大切なのです。

「忍者」に絞ったことが成功したわけですね。

稲垣事務局長 「忍者」をしっかり取り上げてくださり、鈴木知事には本当に感謝しています。動きががらっと変わりました。

首長が動いて社会を変えていくべきですね。まち全体が変って行く中、住民も歩調を合わせることが必要ですが、現状はいかがですか?

稲垣事務局長 市民がボランティア活動に参加するなど、住民の意識は変わってきています。けれど、観光に寄りかからないサラリーマン世帯も多く、足並みがそろわないのが実情です。ただ、伊賀市は名古屋や大阪、京都からのIターン、Uターンの適地であると同時に、名古屋や大阪、京都へは日帰りできる距離でもあるわけです。こうした人々を取り込まない手はない。

三重県は滞在型の観光地が少なく、地元への経済効果の波及が小さいことが言われます。

稲垣事務局長 観光客の8割が大阪と名古屋からで、9割が車利用です。つまり、リピーターが多いということです。したがって、時季に合わせてきめ細かな地域情報を提供することが重要になってきます。

なるほど。「忍者」に着目した鈴木知事は正解でしたね。では、このブームのまま、いかに他の観光資源へ誘導していくか。知事の協力も得ながら市長をはじめ観光協会さんの手腕に期待したいものです。

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