株式会社郷土活性化


飲食業から地域・郷土の活性化、人材育成を目指す

 三重県内の海の幸やトンテキなどの肉料理を味わいながら、地酒やハイボールをたしなみ、土産物の購入もできる複合施設が四日市市にできた。地域に根付き、郷土の食文化を発信する店で、従業員の人材育成もしていく。四日市の新名所を目指し、経営努力を重ねている 企業を紹介する。

「社長になりたい」夢を具現化

 四日市市諏訪栄町の四日市諏訪商店街に昨年7月、県内の食材を使った飲食を楽しめる店「三重うまし国横丁 四日市宿」がオープン。この店を経営する株式会社「郷土活性化」の代表取締役社長、吉田金二朗は、「社長になりたい」という幼いころからの夢を具現化させ、飲食業で郷土の食文化の発信と人材育成を果たそうと、使命感に燃えている。
 吉田はサラリーマンの家庭で育ったが、小学生のころには「社長になるんや」と将来像を描き、自分で事業をしたいと思うようになった。 「なぜだか分からないけれど、小さいころから人一倍、『稼ぎたい』という意識が強かった」と振り返る。
 高校卒業後、営業職を中心に飲食業、不動産業など様々な仕事を経験。不動産会社に勤め、店舗開発を担当をした30代の4年間には、物件開発や独立開業支援を通じて、開業知識を学んだ。多くの経営者との出会いや地域との交流で、多様な人脈を広げることができたという。
 いくつもの仕事に就いた中で、「自分は人が好き、接客が好き。自分の性格には、一人でやる仕事よりもたくさんの人と関わり、喜んでもらう仕事が向いている」と自己の適性を把握。「空間を提供する飲食業に魅力がある。40歳まで に飲食の仕事をしたい」と将来設計した。

フランチャイズ経営ビジョンと乖離が生じ、独立へ

 39歳の時、「そろそろ年齢も年齢」と一念発起し、当時、中部地方で居酒屋など約20店舗を展開していた名古屋市の会社が運営する四日市市内の3店舗をフランチャイズ経営した。
 店舗経営では、産直にこだわり、地場産品を取り入れたメニューを開発するなど、他店との差別化を意識し、新たな客層の開拓にもつなげた。吉田が生産地を直接回り、仕入れた食材で提供する郷土料理に対し、来店者の反応は手応えを感じるものだった。
 また、3店舗の経営に加えて、四日市市で地域活性化に取り組む飲食店でつくる団体「AROUND4(アラウンドフォー)」を立ち上げ、町を良くしたいという共通の意思を持つ経営者らと交流した。飲食業界から地域活性化を図る取り組みに仲間たちと携わり、地域イベントに参加したり、勉強会を開催するなどして活動を重ね、地元の食文化に特化した店を経営していきたいという方向性をさらに 明確化していった。
 だが、吉田が経営する店は、親会社が大手に吸収合併され、吉田のビジョンと求められる運営手法には乖離が生まれてきた。
 そこで、吉田は自分の理念を最大限に表現できる店を経営したいと、3店舗を手放し、独立することを決断。飲食業から郷土の食文化を発信し、産地活性化と地域活性化、人材育成をする目的で、昨年1月、株式会社「郷土活性化」を設立した。

「三重うまし国横丁 四日市宿」オープン 郷土の名産品が集結

 吉田の理想を表現していく店「三重うまし国横丁 四日市宿」は、昨年7月に開業した。店内には、海の幸、肉料理、地酒、伝統工芸品、 和洋菓子など三重県内の名産品が集結し、3つのコンセプトで構成している。
 「伊勢まぐろと原始焼き おいないさ」では、伊勢マグロやアッパ貝、伊勢エビなど伊勢志摩の旬の食材を生産者から直接買い付け、提供。新鮮な地元産野菜を使用し、三重県内の地酒、地ビールも取りそろえている。
 県内のブランド豚を味わえる「キンミヤハイボールと三重の豚 トンテ キ酒場」は、四日市市、鈴鹿市などの生産者から直接購入した豚肉でつくるトンテキなどと共に、四日市市の蔵元「宮﨑本店」のウイスキーや焼酎、南伊勢産の果実を使用したハイボールでもてなしている。
 「43(よそみ)茶屋」は、伊勢志摩の珍味や郷土品、萬古焼き、日永うちわなどの工芸品、四日市市の洋菓子店「アトリエオランジェ」のスイーツ、和菓子店「夢菓子工房ことよ」のみたらし団子などを販売。水沢産のかぶせ茶の試飲もできる。

価値あるものを価値ある値段で販売

 吉田は「三重県は食がたくさんあるが、いまいち販売力がない。それをアピールしたい」と話す。一方で、「安売りする気はまったくない。価値あるものを価値ある値段で販売する」と譲らない姿勢も見せ、「しっかり生産していただいたものを、しっかり価値を付け て、しっかりと販売したい」と信念を語る。
 「高い、安いという価格は僕らが決めるものではない。お客様が決める。価格競争で安く価値を下げる店が多いけれど、付加価値を理解してくれた人に販売していく」と安易な価格競争に否定的な見解を示す。
 吉田は、食育への取り組みにも熱心だ。「今、家庭での食育は難しく、一番身近なレジャー産業である飲食店が食育に入っていかないといけない」と思案する
。  また、「スタッフ教育の一つとして、スタッフにも食材のことを理解してもらう。それが食育にもつながると思う」と持論を明かす。

スタッフの人材育成会社を自己成長する場に

 吉田は会社設立の目的に人材育成も挙げる。 「ただ単に当社で働くのではなく、何のために当社で働き、何のためにお客様に提供するのか。当社で働く意味をしっかり理解して、会社が自己成長する場であるようにしたい」と理想を掲げる。
 「人がどう生きるか。それが地域の繁栄にもつながるし、会社の繁栄にもつながるのではないかと思う」。
 人材育成を目的に掲げる反面、採用活動では、「居酒屋」という業態に対するイメージにもどかしさを多々感じてきた。就職を検討する生徒が、親や学校から難色を示され、「こんなに素晴らしい職場なのに偏見がある」と、何度か悔しい思いを味わった。

おかげ横丁のような町のシンボルに

 そこで、吉田は「三重うまし国横丁 四日市宿」が地域に根付き、いずれは赤福が携わる「おかげ横丁」のような町のシンボルとして認知される存在となることを目指している。
 「おかげ横丁はすごくイメージがよく、就職に反対する親はいない。おかげ横丁のように町に貢献している企業を作り上げれば、止める親もなく、スタッフを守れる。企業価値の高い会社になろうと思っている」  飲食業は休みが少なく、「ブラック企業」のイメージも先行する。だが、飲食業でも月7回の休みの取得は十分可能だと吉田は言う。
 「飲食店は客数かける客単価で利益を出す構造だが、人件費を削るか、食材費を削るかをしないと、なかなか利益が出ない。自分のところの武器を持てれば、やり方次第で十分集客が可能なのに、武器を持たないから従業員の負担になってしまう」と業界の現状に苦言を呈し ている。
 さらに、仕入れ先の生産者側の現状にも憂うべき問題があるという。アッパ貝などを仕入れている南伊勢町では、過疎化が進み、漁業の後継者がいない。いい食材があっても、安定した販路を広げ、就労する人間を増やさなければ、永続的に続けることができないと、危機感を募らせている。

居酒屋のイメージ壊し、できてよかったと思われる会社に

 吉田にはいつか、テレビ東京系列の経済トーク・ドキュメンタリー番組「カンブリア宮殿」に出演するという夢がある。「出るにはそれなりの経歴があり、これから成長する企業が選ばれている。居酒屋でも地域貢献をして、次世代の人材育成もしている。そういう企業をつくれるというのを見せ、出演したい。居酒屋のイメージを壊したい」と言葉に熱がこもる。
 好きな言葉は「出会いは偶然ではなく必然」。「出会いはすごく大事にしている。何を持ってるかとか、お金ではなく、出会いをご縁と受け止めている。スタッフでも、これだけ店がある中でうちに来てもらう決意をしてくれ、頑張ってくれるのはすごくうれしいこと」と縁に感謝する。
 吉田の店は、まだスタートしたばかり。今年は、湯の山温泉に完全予約制で目が行き届き、究極のおもてなしができる小規模宿泊施設をつくる計画も始動する。さらに「将来的には教育、スクール事業も展開したい」と意欲は尽きない。
 「やり出してすぐに結果が出るものではないが、5年、10年、 もっと先かもしれないが、『うちの会社ができてよかった』と思われたい」と努力を惜しまない決意だ。

三重うまし国横丁 四日市宿

〒510-0086
三重県四日市市諏訪栄町13―10
TEL / 059-354-2000
≪営業 時間≫
『伊勢まぐろと原始焼おいないさ』
ランチ  11:30~14:30(LO14:00)
ディナー  17:00~24:00(L23:30)
『キンミヤハイボールと三重の豚 トンテキ酒場』
15:00~23:00(LO22:30)
43茶屋
12:00~23:30
定休日 不定休

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