尾鷲 金盛丸


「まぐろの角煮」で故郷尾鷲の振興に貢献

 家業である「生鮪の卸」を活かして、なにか尾鷲のためにできないか。熟慮と研究の繰り返しの果てに行き着いたのが、「まぐろの角煮」だった。
 親子で鮪に関わり、加工と流通をクリアした。目指すは「まぐろの角煮」を使ったまちおこし。食のイベントに代表されるように、さらなるまち振興のためには近隣自治体と協働して取り組む必要がある。

人生のターニングポイント

 NTT(名古屋)を辞し、故郷へ戻ったのは五年前。それまで故郷で暮らすことは難しいと思っていたし、尾鷲の町そのものにも関心がなかった。安定した生活基盤を尾鷲に見つけることはできなかった。ところが、三十歳を迎え、この先の人生を考えたとき、なにやら心にひっかかるものがあった。サラリーマン生活が家族間にもたらす弊害のようなものを感じていたし、日常の会話もままならない家庭のあり方に疑問を持ちはじめていた。そんなときだった。経営者のための勉強会「青年経営者研修塾」に誘われ、「人生で何を実現したいか」と問われて、自分自身に人生の目的が無いことが分かり愕然となった。その塾であらためて自分らしい生き方という問題に真摯に向き合った。考えをめぐらせること三年。一つのことに思いあたった。故郷・尾鷲のことである。はじめは重い気持ちで出席した勉強会だったが、ここでの三年間は実に有意義だった。会を後にする頃には霧が晴れたように心が軽くなっていた。「青年経営者研修塾」に誘われたことが、人生のターニングポイントとなった。

私が尾鷲のためにできること

 妻も大賛成してくれた尾鷲行き。帰って、尾鷲のために何ができるか―。それが問題だった。家業を継ぐのではない。あくまで目的は尾鷲を盛り立てることである。生鮪の卸を生業とする父の下でしばらく働いたが、その先がなかなか見えてこない。焦る気持ちを押し殺して、父の仕事を手伝った。ある日、手元のマグロを見て、閃いた。「鮪をまちおこしに使えないものか」。思い着いたのがまぐろの角煮である。両親には鮪の卸を続けてもらい、自分たちはまぐろの角煮をやって行く。加工商品で小売りを充実させよう、そう決心した。
 曾祖父が創業時に名付けた店の名をいただいて、屋号とした。「尾鷲金盛丸」。尾鷲に金盛丸あり!商売繁盛を招く実に縁起の良い名前である。店内にはまぐろの角煮を中心に、幾種類もの干物を並べた。今後は、角煮に使う鮪の未利用部分を見直し、新たな加工商品もどしどし開発していく計画。「尾鷲金盛丸」の新たなる出航に胸が高鳴った。
 まぐろの角煮に関わって五年。父が続けてきた生鮪の卸にようやく追いついた。売上も伸び、手応えを感じている。ただし、店では紀伊勝浦産の生のメバチマグロだけを使用するため、仕入れに波があり、苦労は絶えない。カツオで作る角煮もあるが、妥協はできない。あくまでメバチマグロである。できることなら干物もやめて、メバチマグロの角煮一本でやっていきたい。

「尾鷲まちの駅」で飲食の夢実現

 まだまだ商売でやりたいことはたくさんある。その一つが、観光客に向けて飲食を充実させること。午後の遅い時間、観光客に泣きつかれたことがある。聞けば、午前中はともかく、午後は魚貝類を食べられる飲食店がないという。…これでは「魚のまち」が泣く。こうした事態に一矢報いるべく平成二十五年七月、「尾鷲まちの駅」が開業した。だれもが気軽に利用できる休憩ステーションとして現在二十三施設が加盟している。趣向を凝らしたおもてなしで、観光客に喜ばれている。
 このうち九店舗で土曜・日曜を中心に「おわせ棒食べ歩き」が開催されている。まぐろカツ棒や地魚天ぷら棒、旬の魚塩焼き棒など各店の自慢の味を手に尾鷲のまちを食べ歩きしてもらおうというもので、言わば、尾鷲ならではのファーストフード。一本百~三百円。手頃な値段で、味は抜群。人気を呼んでいる。
 今年八月、紀北町の引本港魚市場で「第七回海・山こだわり市」が開催され、「おわせ棒」と「こだわりきほく棒」(紀北町)の対決が注目された。各店舗の味へのこだわりと郷土愛が感じられる手づくりイベントとして大好評を博した。尾鷲をはじめ、地場産業の振興は目下自治体共通の課題である。この種のイベントでは他の自治体へも応援に駆けつけ、東紀州全体として盛り上げて行く必要があるだろう。縦割りはいけない。連携して問題に対処しなければ。大局的な視野が求められる。

尾鷲が抱える宿泊施設の問題

 「食」の問題とともに、尾鷲が抱える重要な問題として「宿泊」が挙げられる。このほど開通した高速道路で確かに交通は便利になった。しかし、南紀にまで延伸され乗り入れ可能となる頃、ここ尾鷲が素通りされる心配はないか。危機感を持っている。倉庫を改修して、食だけではないアミューズメント施設を造ろうか…、そんな夢を描いている。他の業者さんにも入ってもらい、にぎわいを創りたいとも考えている。
 後継者不足も深刻な問題である。漁業に携わる若者がいない。若手が動けば、行政関係は応援してくれるだろうか。行政を動かすのは自分たちの力であり、頑張りである。若者たちよ、団結しよう!必ずや、乗り越えられることを信じて。

「尾鷲金盛丸」店長、夢語る

 現在、「尾鷲商工会議所青年部副会長」「まちの駅ネットワーク尾鷲会長」「尾鷲よいとこスタンプ役員」「(協)尾鷲観光物産協会理事」を拝命している。
 尾鷲商工会議所青年部は今年創立三十周年を迎える。若者の人口減少もあって、もう一度足元から見直す必要が出てきた。地域のため、そして自社の発展のためにどのような活動をすべきなのか、副会長として模索する毎日である。
 まちの駅ネットワーク尾鷲では「食べ歩きできるソウルフード」=「おわせ棒」の普及に尽力。尾鷲だけの食という捉え方ではなく、東紀州一帯に〝○○棒〟を提案して横の連携を備えた一大食を作りあげたい。また、尾鷲をより知っていただくため、イベンやツアーなどにも取り組み、中部・関西圏に積極的アプローチをしていきたい。
 仕事面、特に商品開発で心がけているのは店舗と尾鷲への両方の効果である。「帰ってきても、何もないで」。尾鷲に帰ってくる際、尾鷲の方々から言われたこの言葉が今も頭から離れない。ここ尾鷲の人の考え方が分かり、私が描いていた夢とはずいぶん隔たりがあることを知った。しかし、その考え方を変えることが大事で、尾鷲の子供たちは夢を持って欲しい、尾鷲でもこんなことが出来ることを伝え続けていきたい。そのためにも勉強することは大事。机上の勉強だけでない。人々と交わり、新しいことにチャレンジするのが勉強であり、それを重ねて自分の人生を楽しいものにしたい。

尾鷲 金盛丸

尾鷲市港町11-10
TEL:0597-25-0004
FAX:0597-25-0014
定休日:水曜・日曜・祝日
http://aox.jp/owase-kinsei/

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