社員をどこまで放置して、どこから手を差し伸べるか、その塩梅が難しい。経営者にとって、永遠のテーマである。
― オキツモ様の現在までの企業沿革について、教えてください。
山中 祖父が大阪で丁稚奉公をした後、独立して塗料の製造・販売を始めました。桑名の鋳物屋さんから依頼を受け、ストーブに塗っても剥がれず、着色もできる耐熱塗料の開発を手がけました。現在も当社の主力商材です。
― 耐熱塗料は一般の塗料に比べて、競争力(価格)はどうなのですか?
山中 当時は他に扱っていませんでしたし、熱のかかる部位に使用できる塗料として重宝されてきました。もっとも、祖父の頃に大きな売上があったわけではありません。熱に強い塗料として市場シェアを拡大したのは次の父の代です。高度成長時代、オートバイや自動車、熱調理器具などの製造業とともに、当社のビジネスも比例して拡大しました。
― 他社の参入で競合する事態にはならなかったのですか?
山中 私が入社した1980年代の終わり、競争は激しかったです。ただ、生産形態が少量多品種になりますので、大手メーカーにとって取り組みにくい点は否めません。手間がかかる仕事なので、競合にはならなかったようです。
― それに、当時は今ほど輸送網が発達していませんでしたから、大量のものを造ってもコストばかり積もったのでしょう。以降、オンリーワン路線で?
山中 そういうわけではありませんが、ありがちなものをつくっても振り向かれないので特徴づけをしたのです。つまり、商品力を持たせたわけ。その一つが耐熱塗料でした。当時は商社を通して販売するのが一般的でしたが、直接ユーザーさんと共同開発したのです。それが成功要因だったと先代は話していました。
― 商社を通すと人件費が加味され、最後には価格に反映されますからね。
山中 商社を通さず、また、手間がかかる仕事ゆえ他社の参入が少なかったため、価格を下げる必要がなかったのです。人のやらないことをやって商売にしたのです。
― 必要な分野で、比較的市場が狭いところが狙い目?
山中 そのとおり。新規のビジネスにはそういう側面がありますね。二輪車のマフラーに使う黒の塗料などは当社の売上シェアの大きな部分を占めます。手間がかかって、みんながやりたがらない分野の仕事をしたことで自分たちの領域(なわばり)を築くことができました。
― そこが強みであるわけですね。先代から引き継いだ課題と経営戦略について教えてください。
山中 会社をつくるため、タイに赴任したときは本当に困りました。通貨危機などもあって、先の見えない道を走っている気持でした。でも、やがて展望が見えはじめ、中国や東南アジアへ販路を拡げていきました。マフラーなどがそうです。タイへ行った当時売上は30億円未満でしたが、今日では80億円にのぼります。海外に進出したお蔭だと思っています。したがって、いかにして海外の需要を取り込んでいくかが今後の経営課題になります。折衝力、語学力を含め、海外で仕事をするための社員教育が必要です。
― 海外展開時のご苦労に耐えられたのも、ご家族の協力があったからでしょうか?
山中 少なからずあったと思います。
― 先代からタイに会社をつくるよう命じられたとき、どんな心境だったのですか?
山中 それはもう驚きました。言葉にならないくらいです。
― 思い付くけど実行に移せない人は多いものですが、先代は思い切りの良い人ですね。社長にとっても人生のターニングポイントになったわけですか?
山中 タイに行かせてもらってよかったと思います。自分のためになりました。3年で戻ってきましたが、その後も関わりながら、6年目で黒字に転じ、嬉しかったし、自信にもなりました。
― 何もない場所に立ち上げる。そのご苦労は今後に生かされますか?
山中 実体験があると、話の説得力が違います。人を振り向かせる力がありますね。
― ところで、海外進出となりますと相手国に技術をマネされる心配があるのでは。最悪の場合、技術が盗まれる危険性もありますね?
山中 データ流出の話をよく聞きますが、私どもでも混合割合などを記したレシピが漏れないよう注意しています。暗号化したりして。
― データは財産ですからね。さて、「耐熱」に続く次の技術や商品は何でしょう?いくつかご紹介ください。
山中 「熱」に関連したプラスアルファの性能を付与したものです。断熱、飽和熱の考え方を取り込み、エネルギーロスを防ぐための商品開発を進めています。屋根に塗って熱を反射する商材などです。家屋そのもののクールダウン。もう一つは、壁に塗って光触媒で土汚れを弱くする商材です。いわゆるセルフクリーングで、太陽光に光触媒が反応し、活性酸素を出して、汚れを弱くします。塗料は親水性なので、壁から汚れを剥離しながら水に流す仕組みです。環境にも良いと思うのですが。さらには、精密機械などメンテナンス性が悪い箇所での摩擦や熱を減じる潤滑コーティング商材があります。
― ロケット関連での実績もあると伺いました。
山中 発射台に使う塗料です。昔はロケットを1回打ち上げるたびに発射台を造り替えてきました。たいへんもったいない話で、吹き付けて形成する商材を開発しました。NASAの日本版です。現在種子島で使われています。
― 発射台を使い捨てにしないという発想から生まれた商材ですね。環境にも大きな貢
だと思います。ビッグスケールの仕事ですから、請負うにあたってはずいぶん迷われたのでは?
山中 現場サイドの判断で進めるものと、全社的な判断を要する場合があります。切り分けが必要です。費用と時間がかかる仕事は経営判断、そうでないのは現場判断となります。
― そこの判断力がすごい。正しい判断は企業の宝ですね。
山中 相談があった仕事に関しては、すぐさまNOを言うことはありません。まずは検討します。そもそも効率だけを追い求めると新しいものが出ない。現場をどこまで放任して、どこから手を差し伸べるか。その塩梅が難しく、経営者にとって永遠のテーマですよ。現場ではお客の要望を満たせば、その時点で一つ一つの仕事が完結します。年間を通して、つまり長期的に見てどうなのかを問題にすると難しい。小さな仕事をどのように方向づけて実績にしていくかがマネジメントでです。
― 社長の経営方針は?
山中 何がヒットするかばかりを考え、視野を狭めてはいけません。うまく泳がせるところと締めるところのバランスをながめつつ現実の数字にどう変えて行くか、それが経営者の仕事です。
― ひとつの大きな組織の中で、制約を受けつつも、各自が自主的に仕事を創ってそれを全うするというあり方。自由奔放などではなく、強い責任感をもって自ら動き、やり遂げる。それぞれに自主性をもち、独立採算性で取り組む企業が海外には少なくありません。こうした企業のあり方に共感を示されていますね。
山中 はい。ここに留まっている以上、鈍くなります。すなわち、仲介者を通じてお客と対話していては感を鈍らせます。ニーズに即応できないでしょう。
― では最後に、生まれ変われるとしたら?
山中 学生時代、演劇をやっていましたから、できれば創造的なことをやりたいですね。
オキツモ株式会社
■事業内容
耐熱塗料、フッ素樹脂塗料ならびに
機能性コーティング剤の製造販売
■経営理念
「驚きと感動のモノづくりで社会に貢献し、
夢のあるユニークな会社を目指します」
■社名の由来
社名の「オキツモ」は、万葉集に詠まれた
名張の枕詞「沖津藻」(おきつも)に
ちなんだもの。最先端のテクノロジーを
追求しつつも、美しい自然を愛した万葉人
の素朴で豊かな心を忘れない企業人で
ありたい。
■住所 名張市蔵持町芝出1109-7
https://www.okitsumo.co.jp/
電話0595-63-9095