萩農園

堆肥や大豆のくず、米ぬかが肥料に―。
周囲は山の菰野町で、湧き水や井戸水を使い、有機農法で米作りに励む農場がある。
経営者の萩浩司さんは「成功例がないと真似する人なんていない」と、有機農法で生計が立つことを実践した上で、農業の担い手が広がる未来に思いを馳せている。

安全でおいしい品質を追求

 萩さんは、化学肥料や農薬に依存しない「有機農法」にこだわった米作りに取り組む。「お客さんを裏切れない」という一念で、安全でおいしい品質を追求し続けている。
 有機農法は、人工的な化学肥料や農薬の使用を抑え、畜産廃棄物や農産廃棄物を熟成させたり、発酵させたりした有機肥料を利用し、無農薬、低農薬の農業を行う。従来、化学肥料や化学合成農薬を積極的に導入して、作業を機械化し、収穫量の増大を図ってきた農法を見 直すアプローチだ。
 萩さんは農家の三代目。明治大学農学部で農芸化学を学び、微生物を専門として、醤油製造会社で勤務。自動車部品製造会社に転職した 後、交代勤務の傍ら、29歳から 家業の農業に従事するようになった。

機械、化学肥料のコスト削減に腐心

 当時、稲作だけで生計を立てるのは困難で、父は庭師と兼業。萩さんも50歳近く まで会社勤めを続けながら、農業のコスト削減に腐心した。
 「卑しい話、サラリーマンを続けていたのは、お金を貯めていた。農家になるには、2、3年食えなくても生きる力がないとできない」
 農家の経営を圧迫する主な要因は、機械代と化学薬品代だ。萩さんは、会社勤めの経験から、「メーカーはコスト削減を徹底的にやっているのに、農業にはものすごく無駄が多い」と指摘する。
 まず機械に関して、萩さんは、中古の農機具を購入。自動車部品メーカーで習得した技術を生かし、修理して使用し、大幅なコストの抑制 につなげた。
 一方、化学肥料については、化学物質で荒廃した土を改善しようと、親類の牧場から譲り受けた堆肥を投入するなどして、土を肥やすことに注力した。
 化学肥料ばかりを大量に使用し続けると、有機物が不足、土の中の微生物が減少し、土壌の栄養が乏しくなっていく。萩さんが休みの日に 2、3時間かけてトレーラーを引っ張り、農地に堆肥を振る作業は、「変わり者」と不思議そうに見られたりしたものの、5年ほど経 過し、土地が肥えてきた手ごたえを実感した。
 試行開始から約10年かけて、化学肥料を使わなくても米ができるような肥沃な地に変えていった。現在は15ヘクタールの農地で米、麦、大豆を栽培している。

ガソリン値上がり、円の動向も関係ない

 萩さんは「堆肥や大豆のくず、米ぬかだけで肥料になる。コストを下げるにはそれしかない」と力を込める。その上、「人が捨てた機械を 修理してもらい、自分でも修理する。廃品を集めて使っているから、ガソリンの値上がりや円の動向も関係ない」と利点を挙げる。
 有機農法での米作りは、化学物質に頼った慣行農法と比べ、反当たりの収穫量が低い点が課題とされるが、萩農場では反当7、8俵と、ほとんど差がない程度まで、収穫量も引き上げたという。
 萩さんの地道な努力が奏功し、これまでにJAS規格のほか、環境にやさしい生産方法で作られた農産物などが登録できる「みえの安心食 材」の認定を受けた。顧客の信頼も築き上げていき、当初3軒だった顧客数は年々増加、現在では60軒を超えた。
 昨年は、三重県内のこだわり農林水産物や加工品を集めたギフトカタログ「三重ギフトコレクション」にも出品が決まった。カタログは葬祭式場の光倫会館を展開する株式会社ふじや本店(四日市市)が香典返し用に新たに制作。贈答や催事の引き出物、三重県の農林水産 物や加工品の通販ツールとしても利用される。
 「三重県の自然環境は、農産物に適したものと知られていない」と萩さん。地元の消費者においしいものを知ってもらうとともに、他県の人へのPRにもつながることも期待している。

出会いに感謝、必ず同調者は現れる

 「これだけ肥えた土地と環境ならぜひ」と、JAS規格の取得を勧め、難しい審査書類の助言をしてくれた検査機関の関係者、地産地消の取り組みを推進してきた県の職員などとの出会いを振り返り、萩さんは感謝する。
 「私の運が良かったのは、個人の力じゃなく、めぐり会った人が応援してくれた」と謙遜。一方で、「やっていることに間違いがなければ必ず同調者が現れる」と胸を張る。

子どもたちも農業の道へ

 萩さん自身は、現在、息子二人が共に農業の道に進み、娘も農業大学に進学した。
 父の背中を見て進路を選んだ子どもたちに対し、「私は何も言った覚えはない。自分のやっていることをやっぱり見ている」と目を細める。 農業大学の研修生も受け入れ、後継の育成に心を割いている。
 一方で、周辺の農家を見渡すと、平均年齢は80歳近く、農業から離れる人も後 を絶たない。「補助金があっても翌年あるかどうかは分からないし、もうからないからやめていく。後をどうするのかは誰も考えない」と、県内の後継者不足の現状に気をもむ。

誰でも有機農法で農業ができるレベルに

 「後継をどうやってつくるかは、口ではない。成功例がないと真似する人なんていない」として、「有機農法で生計が立つことを実践して、誰でも有機農法で農業ができるレベルにしたい」と手法の確立を図る。
 萩さんは「日本は水がきれいで、環境もいい。お米を作るのには最適な土地。お米を作るだけでなく販売もあり、雇用にも生きていく」と 農業に従事する素晴らしさを語り、農業が多くの人の仕事として見直されることを願う。
 「失敗したら責任を取ってやろうぐらいの姿勢あれば、農家の後継者もできると思う」と、未来に期待している。

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